
勿論,リーダーであるゲイリー・バートンのヴィヴラフォンが目立っている。いいや,このレジェンド5人組の中でも最高位はチック・コリアである。チック・コリアのあの個性的なピアノが鳴り響いている。
フロントの黄金のトライアングルを向こうに回して,老練なデイヴ・ホランドのベースがいい仕事をしているし,ロイ・ヘインズのドラミングがただただ素晴らしい。『ライク・マインズ』がここまでエキサイティングしているのは多分にロイ・ヘインズのおかげである。
でもそれでも『ライク・マインズ』を聴いているとパット・メセニーのギターだけが突出して聴こえてしまう。
ヴィヴラフォン,ピアノ,ベース,ドラムが息の合ったインタープレイを繰り広げている音場にギターが加わった瞬間,他の4つの楽器のボリュームが下がる感覚がある。
管理人は考えた。パット・メセニーのギターばかりが目立ってしまう『ライク・マインズ』の音造りの失敗は,全員が主役を張れる「ビッグネームあるある」にある。
ゲイリー・バートンとチック・コリアは「伝統芸能」デュオ。パット・メセニーはゲイリー・バートン・バンド出身者。チック・コリアとデイヴ・ホランドはマイルス・デイビスのバンドの同僚にして「サークル」の結成メンバー。ロイ・ヘインズはチック・コリアのピアノ・トリオのメンバー。デイヴ・ホランドとロイ・ヘインズはパット・メセニーのギター・トリオのメンバー。
聴けば『ライク・マインズ』の10トラック中6トラックがファースト・テイクで残りの4トラックもセカンド・テイクで録り終えたそうだ。これだけ共演を重ねた相手ばかりなのだから「阿吽の呼吸」で分かり合えるのだろう。和気あいあいと楽しい雰囲気でレコーディングが進行していった様子が想像できる。
しかし,そんな中でも“世界一の音楽バカ”パット・メセニーだけはいつも通りの真剣勝負。共演者を知り尽くし,楽曲を知り尽くして,自分自身が今できる最高のパフォーマンスを披露する。
それでこそ管理人が愛するパット・メセニーであり,そんなメセニーをゲイリー・バートンもデイヴ・ホランドもロイ・ヘインズも愛している。
チック・コリアはどうなのだろう? 過去においても『ライク・マインズ』に至るまでチック・コリアとパット・メセニーの共演歴はない。そして『ライク・マインズ』以降においても2人の共演歴はない。チック・コリアは相変わらずフランク・ギャンバレばかりを重用している。
『ライク・マインズ』を聴く限りチック・コリアとパット・メセニーの相性は悪くないと思うのですが,そこは大人の事情なのでしょうか?

ヴィヴラフォンは他の誰でもなくゲイリー・バートンのヴィヴラフォンだし,ピアノは他の誰でもなくチック・コリアのピアノだし,ベースは他の誰でもなくデイヴ・ホランドのベースだし,ドラムは他の誰でもなくロイ・ヘインズのドラム。
『ライク・マインズ』を聴いて思うこと。パット・メセニーの後ろで鳴っている4人の音が超一流であるということ。超一流のジャズメンとは自分の音を持っているということ。『ライク・マインズ』はとってもいいジャズ・アルバムです。
01. QUESTION AND ANSWER
02. ELUCIDATION
03. WINDOWS
04. FUTURES
05. LIKE MINDS
06. COUNTRY ROADS
07. TEARS OF RAIN
08. SOON
09. FOR A THOUSAND YEARS
10. STRAIGHT UP AND DOWN
(コンコード/CONCORD 1998年発売/MVCL-24011)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)