THE KOLD KAGE-1 1980〜90年代にムーブメントを巻き起こした「M−BASE」が,現時点ではジャズ史に登場した最後の「新しいジャズ」である。
 あれから随分と時間が経つというのに「M−BASE」の代表作を聴き直すと,未だに軽い衝撃を受けたりする。そんなぶっ飛んだ「M−BASE」の中でも,とりわけぶっ飛んでいたのがゲイリー・トーマスである。

 「スイングジャーナル」誌「ジャズ・ディスク大賞」。90年度は『バイ・エニー・ミーンズ・ネセサリー』で【銅賞】受賞。91年度は『ザ・ゲイト・イズ・オープン』で【金賞】受賞。92年度は「ジャック・デジョネット・スペシャル・エディション」の『アース・ウォーク』で【金賞】受賞。
 時代は確実に「M−BASE」であった。そしてゲイリー・トーマスの時代であった。

 そんなゲイリー・トーマスが新作では何と!ラップを取り入れていると聞くではないか! これは凄いことになっていると思い“身構えて聴いた”のが『THE KOLD KAGE』(以下『コールド・ケージ』)である。
 意外にも『コールド・ケージ』の第一印象は「落ち着いている」であった。何だか分からないがゲイリー・トーマスが一気に大人になっていた。ラップが全然邪魔していないし気にならない。

 「M−BASE」の場合,主役は大抵,高度で斬新なポリリズム。流れるようなリズムにぶつかり合う小難しいメロディーのハイセンスが聴き所!
 『コールド・ケージ』の主役は「M−BASE」の王道であって,デニス・チェンバースの正確無比な野獣のドラミングアンソニー・コックスの重厚織り交ぜたベースであろう。
 そこにピアノギターが出たり入ったりして,アクセントたっぷりのリズム隊が主張している。乗れそうなのに乗り切れない,バッキバキの変拍子が超COOL!

THE KOLD KAGE-2 しか〜し『コールド・ケージ』の主役は紛れもなくゲイリー・トーマス! リズム隊の裏を支えるサックスが,フルートが,そしてラップさえも『コールド・ケージ』の重厚で精悍で冷徹な音楽性を彩っている!
 ビートの捕まえ方,クロマティック・ラインの活用の新しいアイディアは,ここまでぶっ飛び続けてきたゲイリー・トーマスの「M−BASE」そのまんま!

 ゲイリー・トーマスがフロントから一歩引いて,アルバム全体の音楽監督を務めているのが『ザ・ゲイト・イズ・オープン』。
 管理人の嫌いなラップも入っているし,あんなにも好きだったゲイリー・トーマスから一歩引くきっかけとなったアルバムであるが,実はゲイリー・トーマスの全アルバムの中で「一番かっこええ」アルバムが『コールド・ケージ』なのである。かっちょええ。

  01. Threshold
  02. Gate of Faces
  03. Intellect
  04. Infernal Machine
  05. The Divide
  06. Peace of the Korridor
  07. First Strike
  08. Beyond the Fall of Night
  09. The Kold Kage
  10. Kulture Bandits (to be continued)

(バンブー/BAMBOO 1991年発売/POCJ-1070)
(ライナーノーツ/熊谷美広)

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