FOUND ON SORDID STREETS-1 『エグザイルズ・ゲイト』からここまで変わって来るか!? これがゲイリー・トーマスの「M−BASE」オルガンジャズの2枚目『FOUND ON SORDID STREETS』(以下『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』)を初めて聴いた時の感想である。

 悪い意味ではない。とにかく「黒い」のだ。所謂,黒人のファンキーオルガンジャズではない。今回のオルガニストジョージ・コリガン。白人である。
 にも関わらずジョージ・コリガンオルガンが,とことん「黒い」。ラップにも負けない,気合いとパッション漲るストレートアヘッドなオルガンが『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』の音場を支配している。
 ゲイリー・トーマスの目指す,最高のオルガンジャズジョージ・コリガンの手によって完成したように思う。

 ベース入りとベースレスの2つのセットが互いの魅力を引き立てていたのが『エグザイルズ・ゲイト』の魅力であったが『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』はベースレス編成のみ。
 つまりはギタリスト! つまりはポール・ボーレンバックである。ちなみにポール・ボーレンバックも白人にして,黒いツボを押してくる。1990時代のオルガンジャズギタリストって,ジョン・スコフィールドにしてもジョン・マクラフリンにしても,オルガンに合わせるのが「黒人以上に」実に上手い!

 そういう訳で?『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』の主役は,ジョージ・コリガンオルガンポール・ボーレンバックギターである。

 ゲイリー・トーマスの魅力とは,激しくもメカニックなフレージングだと思っている。「黒い」テナーサックスゲイリー・トーマスにとっては分が悪いのか?不器用でフリー・フォームしていないゲイリー・トーマスの演奏に何を思い浮かべるかと問われれば,答えは「特に印象に残っていない」となる。

 ズバリ『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』の聴き所は,ロング・ソロではない。ゲイリー・トーマスジョージ・コリガンポール・ボーレンバックの短いながらも何度も繰り返されるユニゾンにある。
 3人でテーマを重ね合わせた時の“快感”の余韻に浸りながら,やがて1人2人と朽ち果てていく男たち…。

FOUND ON SORDID STREETS-2 管理人の結論。『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ批評

 『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』とは「落ち目となった」ゲイリー・トーマス自身にとっての“癒しのアルバム”である。
 前へ前への革新作業に疲れを覚えていたのだろう。一旦立ち止まり,一歩退いたからこそ見せることのできたゲイリー・トーマスのバックボーン。

 そう。『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』とは,ゲイリー・トーマスが思い描く「故郷ボルティモアの音楽伝記」のコンセプト・アルバムである。
 『エグザイルズ・ゲイト』から“バック・トゥ・ザ・フューチャー”してきた,ゲイリー・トーマス初めてとなる,非「M−BASE」で脱「M−BASE」なジャズ・アルバムなのである。

  01. Spellbound
  02. Treason
  03. The Eternal Present
  04. Exile's Gate
  05. Hyper Space
  06. Found On Sordid Streets
  07. Peace Of The Korridor

(ウィンター&ウィンター/WINTER & WINTER 1997年発売/BOM-22005)
(☆直輸入盤仕様 ライナーノーツ/松永紀代美)

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