PLAY-1 デュエット・アルバムが数十枚も存在するチック・コリア。そんなチック・コリアデュエット・アルバムの中で,チック・コリアの名前が後から出ているのは,後にも先にもボビー・マクファーリンとのデュエット・アルバム『PLAY』(以下『スペイン』)以外には存在しない。

( ハービー・ハンコックチック・コリア名義の『IN CONCERT』はチック・コリアハービー・ハンコック名義『AN EVENING WITH CHICK COREA AND HERBIE HANCOCK』の裏。その他はサイドメンとして参加した『THE BENNIE WALLACE TRIO & CHICK COREA』の例があるくらい )

 この事実こそがチック・コリアボビー・マクファーリンに対する「最上級の尊敬の気持ち」の表われである。
 そう。ボビー・マクファーリンだけはチック・コリアにとって「別格中の別格」。ボビー・マクファーリンはミュージシャンというよりも“大道芸人”のそれである。

 『スペイン』でのボビー・マクファーリンが“七色の声”を使って“百色の声”を出している。もはやこの音は声でもない。楽器の音のそれである。
 とはいえ,これこそがチック・コリアの凄さである。ボビー・マクファーリンが自由自在に表現出来るように,ボビー・マクファーリンの声の調子に即座に反応する“天才”チック・コリアの凄業!
 
 チック・コリアボビー・マクファーリンに反応すれば,そのチック・コリアボビー・マクファーリンが更に反応する。そんな“丁々発止”のやり取りがレイコンマ何秒の世界で展開する“瞬間芸術”。一瞬の閃きのセンスの何という素晴らしさ。

 音楽的な会話だけはない。そこにはユニークな笑いの要素もある。実に“チャーミング”な会話であって,2人だけの会話のはずが,会場の中から1人が加わり,またそこに2人3人と加わり,何だか自分もその会話に加わっているような不思議な気分になる。

PLAY-2 表向きは,そんなリラックスした「大道芸大会」を進行させながらも,ボビー・マクファーリンチック・コリアは大真面目である。
 今後共演できるチャンスはそう滅多にない。2人でタッグを組みながらジャズヴォーカルジャズピアノの可能性を探っている。

 ボビー・マクファーリンヴォーカルは,よくあるスキャットの類を越えている。真に超絶なヴォイスの連続であって,チック・コリアが旋律を弾けば,ボビー・マクファーリンヴォイスベース・ラインを担当する。

 そんなボビー・マクファーリンだからこそ,チック・コリアが自ら退いて,後方の名義を名乗っている。
 そう。『スペイン』のテーマとは「チック・コリア・プレゼンツ・ボビー・マクファーリン」なのである。

 インスト好きのジャズ・マニアの読者の皆さん。インストしか聴かないと決心するのは何とも勿体ないですぞ。

 
01. SPAIN
02. EVEN FROM ME
03. AUTUMN LEAVES
04. BLUES CONNOTATION
05. 'ROUND MIDNIGHT
06. BLUE BOSSA

 
BOBBY McFERRIN : Vocal
CHICK COREA : Piano

(ブルーノート/BLUE NOTE 1992年発売/TOCJ-5690)
(ライナーノーツ/市川正二,ボビー・マクファーリン,チック・コリア)

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