SUNDANCE-1 通称「ロスト・クインテット」への参加で,あのハービー・ハンコックを“出し抜いた”チック・コリアが,アコースティックピアノで綴った「電化チック“マイルス”コリア」が『SUNDANCE』(以下『サンダンス』)である。

 『サンダンス』には“電化マイルス”からの影響がクッキリ。特に「ロスト・クインテット」から,そのまんまデイヴ・ホランドベースジャック・デジョネットドラムを譲り受けた,ヒタヒタと迫りくるアコースティック・セットの4ビートが爆発している。

 そんなイケイケのリズム隊をメロディアスにリードするのが,チック・コリアアコースティックピアノウディ・ショウトランペットヒューバート・ロウズフルートという大物3人の揃い踏み!

 この3人の個性が絶妙に混ざり合い『サンダンス』独自の色が楽しめる。楽曲のクセはチック・コリアの「そのものズバリ」であるのだが「電化チック“マイルス”コリア」の“売り”は,やはり「集団即興演奏」である。
 100%チック・コリアのテイストの中に,ウディ・ショウの切れ味とヒューバート・ロウズの妖しさが同居している。「電化チック“マイルス”コリア」のエレクトリックな表現をアコースティックピアノで「やり切った」実験なのであった。

 【THE BRAIN】の異常なほどのテンションの高さは「ビ・バップ」の再来を狙っているようにも聴こえるし【SONG OF WIND】では「新主流派」の再来を狙ったようにも聴こえるし【SUNDANCE】はキャッチーなテーマをモードで押し切った,後の「RETRUN TO FOREVER」の原型とも捉えることのできる名演である。

 さて,ここで『サンダンス』の問題児である【CONVERGE】の扱いである。
 マイルス・デイビスジャズの全てを作り出してきたことは間違いない。マイルス・デイビスが演ったからこそ,クールがあるわけだしモードがあるわけだしフュージョンが存在するのだ。
 そんなマイルス・デイビスが唯一手を出さなかったジャズ・スタイルがフリーであった。

 ズバリ【CONVERGE】は「電化チック“マイルス”コリア」によるフリージャズである。
 何と!【CONVERGE】で,マイルス・デイビスが唯一手を出さなかったフリージャズが“疑似体験”できる。

 要するにチック・コリアが“電化マイルス”をアコースティックで表現した理由は「集団即興演奏」が当時の流行だったいう1点のみ。
 チック・コリアマイルス・デイビスのアイディアである「ロスト・クインテット」の可能性を探っていたわけではない。それはチック・コリアにとっての“褒め殺し”と同じである。

SUNDANCE-2 チック・コリアは,人一倍流行に敏感なジャズメンである。それでシーンを席巻していたフリージャズチック・コリアも手を染めた。

 「ロスト・クインテット」のリズム隊がフリージャズを奏でるためには,トランペットマイルス・デイビスではダメだ。前衛も行けるウディ・ショウだったからこそ「ロスト・クインテット」もフリージャズにチャレンジできた。ここが【CONVERGE】を視聴する際のポイントである。

 「サークル」のフロントにウディ・ショウが加わっていたなら「サークル」の未来もフリージャズの未来もまた違ったものになったことだろう…。

 
01. The Brain
02. Song Of Wind
03. Converge
04. Sundance

 
CHICK COREA : Piano
HUBERT LAWS : Flute Piccolo
JACK DE JOHNETTE : Drums
DAVE HOLLAND : Bass
WOODY SHAW : Trumpet
HORACE ARNOLD : Drums

(グルーヴ・マーチャント/GROOVE MERCHANT 1972年発売/CDSOL-45947)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)

アドリグをログするブログ “アドリブログ”JAZZ/FUSION