
マンフレート・アイヒャーが「いの一番」でオファーしたのはチック・コリアであって,チック・コリアの成功があってのキース・ジャレットの大成功へと繋がる構図。
つまりソロ・ピアノにおけるマンフレート・アイヒャーの評価としては“天才”キース・ジャレットよりもチック・コリアの方が上だったということだ。
この評価はキース・ジャレット・マニアの管理人をして正しいのかもしれない。『PIANO IMPROVISATION VOL.1』(以下『チック・コリア・ソロ VOL.1』)におけるチック・コリアの煌めきが最高に素晴らしい。
今でこそソロ・ピアノと来れば,キース・ジャレットの独壇場となっているが,管理人の評価ではドローである。
キース・ジャレットがチック・コリアより評価されている理由は単純に作品数の多さ,圧倒的なボリュームにある。加えてチック・コリアは多作家であり,興味を抱いたものに次々と手を出してはその全てを見事にまとめてくる。その点で自分の音楽人生の主軸をソロ・ピアノに捧げてきたキース・ジャレットとはソロ・ピアノへの評価が異なって当然であろう。
「長編小説」としてはキース・ジャレットの圧勝であるが「短編小説」としての破壊力ではチック・コリアに分があるように思う。
と言うのもキース・ジャレットの「短編小説」,例えば『FACING YOU』と『STAIRCASE』の美しさは,牧歌的でゴスペルチックでありつつも,毒である“電化マイルス”の大ヒーロー=キース・ジャレットまでも堪能できる良さがある。
対するチック・コリアのソロ・ピアノは,真にクリスタルな美しさが身体全身に満ちている。超絶な演奏テクニックと相まって高度にロマンティックな音楽がフリー・ジャズの文脈で置き換えられている。「その手があったか〜」な感じがするのだ。
そう。『PIANO IMPROVISATION』の『VOL.1』『VOL.2』を聴けば聴くほど,この全てが完全即興演奏とはにわかに信じられない。
どれもこれもがチック・コリアの「生命の息吹き」であり,新しいジャズ・ピアノの「創造」であった。
ECMのソロ・ピアノの何がそこまで素晴らしいのか? 一言で書けば「未完成」だから素晴らしい。
『チック・コリア・ソロ VOL.1』『チック・コリア・ソロ VOL.2』の真実とは,チック・コリアの「デッサン集」である。
事実『チック・コリア・ソロ VOL.1』『チック・コリア・ソロ VOL.2』に詰め込まれたアイディアの中から,後のチック・コリアの名盤群が発展した跡が残されている。

それでこそチック・コリアである。チック・コリアの音楽は,いつでもスタイリッシュだし,目に見える部分で最高に美しい。絵画と表現するよりも写真と表現した方がしっくりくる。カメラとレンズを通して見るジャズ・ピアノの「ミニマルな新世界」なのだ。
管理人の結論。『チック・コリア・ソロ VOL.1』批評。
『チック・コリア・ソロ VOL.1』は,前半5曲がメジャー・ヒット・チューン,後半8曲は印象派風の【ホエア・アー・ユー・ナウ? 〜8つの絵の組曲】で構成されている。
個人的に『チック・コリア・ソロ VOL.1』のアルバム名を耳にすれば,条件反射的に【NOON SONG】が頭の中で鳴り始めてしまう。【NOON SONG】を聴いて感じる「クリティカルな人肌の清涼感と滑らかな肌触り」と「何回聴いても暗譜の途中で意識が飛んでいく美しさ」。ああ〜!
チック・コリアを愛するファンならば【SOMETIME AGO】の初演は必聴である。“荒削りの”【SOMETIME AGO】にドキドキしてしまう。
後のフュージョン史を彩る大名曲【SOMETIME AGO】が世に産れ出た瞬間を見届けよ!
01. Noon Song
02. Song For Sally
03. Ballad For Anna
04. Song Of The Wind
05. Sometime Ago
Where Are You Now? −A Suite Of Eight Pictures−
06. Picture 1
07. Picture 2
08. Picture 3
09. Picture 4
10. Picture 5
11. Picture 6
12. Picture 7
13. Picture 8
CHICK COREA : Piano
(ECM/ECM 1971年発売/J25J 20325)
(ライナーノーツ/野口久光)
(ライナーノーツ/野口久光)
コメント一覧 (2)
私もこのソロ作品は、何度繰り返し聴いたことか。チックの原初的なピュアな美しさダイナミズムが感じられる作品であると思います。私はどちらかというとハンコック派なのですが、実はいかにチックの音楽が好きか最近思い知らされています。今後ともよろしくお願いします。
良かったら、私のプログも見てやってください。https://zawinul.hatenablog.com/
ザビヌルさんはハービー派にしてチック派なのですね。キース派の私ですが,ファンクを演奏していた頃のハービーが大好きなので勿論ウェザーリポート=ザビヌルが大好きなのです。
でも正直なもので所有CDが一番多いのはチック・コリアです。チックのアルバムはその全てが薄っぺらいとはいえ完璧なので参ってしまいます。チック・コリアほどマルチに活動した天才はいないことでしょう。そんな天才の証しがソロ・ピアノ!