ANTIDOTE-1 『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』の原題は『ANTIDOTE』である。
 日本盤のタイトルが『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』なので,1976年リリースの「ファンタジー三部作」の第二弾『マイ・スパニッシュ・ハート』のリメイク盤と捉えられがちであるがそうではない。

 『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』での『マイ・スパニッシュ・ハート』からの選曲は【MY SPANISH HEART】と【ARMANDO’S RHUMBA】の2曲。
 その一方でチック・コリアが共演を熱望したパコ・デ・ルシアとの『タッチストーン』からも【DUENDE】と【THE YELLOW NIMBUS】の2曲。イーブンである。いいや【ZYRYAB】はパコ・デ・ルシア作曲なので実質3曲である。

 加えて『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』の共演者を見ていくと,パコ・デ・ルシアのバンド・メンバーであるホルへ・パルドフルートサックスで参加している。
 そう。『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』は『マイ・スパニッシュ・ハート』のリメイク盤というよりも『タッチストーン』の続編の意味合いの方が深いのだった。

 ズバリ『ANTIDOTE』の真実とは『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』ではなく『ザ・タッチストーン・バンド』である。
 『ザ・タッチストーン・バンド』ではなく『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』になったのは,多分にレコード会社のセールス上の問題であろう。久々にストレッチではなくコンコードだし…。

 …って,御託を並べてもしょうがない。『ANTIDOTE』の音を聴いてほしい。管理人が『ANTIDOTE』を『ザ・タッチストーン・バンド』だと唱える最大の答えは「スパニッシュ路線」のサウンドにこそある。
 『ANTIDOTE』の肝はギターである。『タッチストーン』ではパコ・デ・ルシアアル・ディ・メオラが舞い踊っていたが『ANTIDOTE』では“ニュー・フラメンコ”のニーニョ・ホセレが舞い踊っている。

 ニーニョ・ホセレギターは今回で初めて聴いたのだが,評判通りの“超絶技巧”の継承者であった。ニーニョ・ホセレが舞い踊るのはスパニッシュギターのハイ・テクニックだけではない。チック・コリアの「スパニッシュ路線」を完全に理解した“味付け”が最高にニクイのだ。

 ニーニョ・ホセレのサウンド・メイクは,フラメンコ・ギターというよりもジャズギターとしても十分に楽しめる重さがあるし,時折顔を覗かせるフュージョン・チックな展開は「エレクトリック・バンド」のフランク・ギャンバレがフラメンコを弾いた感じ?
 フラメンコ・ダンスのニノ・デ・ロス・レジェスの参加は意味不明であるが,きっとニーニョ・ホセレギターを盛り上げる「燃料」としての役割があるのかも?

ANTIDOTE-2 聴けば聴くほど『ザ・タッチストーン・バンド』の本性剥き出しの『ANTIDOTE』。
 『タッチストーン』をチック・コリアの「最重要作」と公言してきた管理人なのだから『タッチストーン』の続編に位置する『ANTIDOTE』を高評価と思うなかれ。
 実は管理人。『ANTIDOTE』にはガッカリさせられた。「最後の綱」であったリメイク系での失敗は,現役チック・コリア・ファンにとって痛い。痛すぎる。勝ちゲームで負けてしまったのだからいつも以上の大ショックである。

 チック・コリアは「リメイクの達人」である。リメイク物をやらせたらチック・コリアの右に出る者は1人もいないと断言する。
 そんなチック・コリアが,あの『マイ・スパニッシュ・ハート』のリメイク盤を手掛けたと聞いたらチック・コリア・ファンは全員即買いしたことであろう。

 でも正直,あれから44年は長すぎた。「ファンタジー三部作」の頃の興奮を期待したのが間違いだった。
 う〜む。チック・コリアにイノベーターなど鼻から期待してはいない。でも正直,アイディアが古い。『ANTIDOTE』に過去のチック・コリアは感じても2019年のチック・コリアは感じなかった。「リメイクの達人」としてのアイディアまでもが枯渇してきたのか?

 どうする,チック・コリア。どうした,チック・コリア。頑張れ,チック・コリア。ラテンで踏ん張れ,チック・コリア。管理人の「裏・マイ・フェイバリット」なチック・コリア〜。

 
01. Antidote
02. Duende
03. The Yellow Nimbus - Part 1
04. The Yellow Nimbus - Part 2
05. Prelude to My Spanish Heart
06. My Spanish Heart
07. Armando's Rhumba
08. Desafinado
09. Zyryab
10. Pas De Deux
11. Admiration

 
CHICK COREA : Piano, Keyboards
MARCUS GILMORE : Drums
CARLITOS DEL PUERTO : Bass
JORGE PARDO : Flute, Sax
NINO JOSELE : Guitar
STEVE DAVIS : Trombone
MICHAEL RODRIGUES : Trumpet
LUISITO QUINTERO : Percussion
MINO DE LOS REYES : Dancer

RUBEN BLADES : Vocal
GAYLE MORAN COREA : Vocal Choir
MARIA BIANCA : Vocal

(コンコード/CONCORD 2019年発売/UCCO-1209)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/チック・コリア,ロビン・D.G.ケリー,熊谷美広)

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