
マンハッタン・トリニティにおけるサイラス・チェスナットのピアノが素晴らしい。繊細なピアノ・タッチで美メロのツボを確実に突いていく。カクテルっぽい部分が前面に出てはいるが,サイラス・チェスナットの“根っこ”にあるブルール・フィーリングが絶妙のバランスで“見え隠れする”のだから一瞬も聴き逃せない。さぁ,次はサイラス・チェスナットのソロ・アルバムの番である。
最初に手に取ったのが『THE DARK BEFORE THE DAWN』(以下『ビフォー・ザ・ドーン』)である。
マンハッタン・トリニティを聴いて,恐らくはサイラス・チェスナットをたくさんコレクションすることになると思ったので,どうせなら古いものから順番に時系列で聴いていきたい,と『ビフォー・ザ・ドーン』の購入は先を見据えてのものであった。…が,しかし…。
『ビフォー・ザ・ドーン』がハマラなかった。こんなにもゴリゴリでペラペラのピアノだったっけ? 全くスマートなジャズ・ピアノではないし,かといってアーシーなジャズ・ピアノでもない。
サイラス・チェスナットの「地黒」って,管理人の嫌いなゴスペル専門系の「黒」だったのか?
『ビフォー・ザ・ドーン』のサイラス・チェスナットは表情が沈んでいる。というか窮屈そうに奥まって,背中を丸めてピアノを弾いている。
マンハッタン・トリニティの“看板”という立場から離れた途端,自分が本当に演奏したい音楽を見失ってしまった感じ?
要はマンハッタン・トリニティにおけるサイラス・チェスナットの繊細なピアノ・タッチは,ベースのジョージ・ムラーツとドラムのルイス・ナッシュに引っ張られての演奏なのだろう。
そう。マンハッタン・トリニティの真実とは,サイラス・チェスナットの個性に合わせて“老練”2人が完璧にお膳立てしたフォーマット。後は
サイラス・チェスナットが譜面通りに演奏すれば成立する「美メロのジャズ・ピアノ」。
サイラス・チェスナットのピアノを鳴らす「腕」には確かなものがある。緩急を付けた表現力には耳を奪われる。しかしジャズメン足るもの,そのテクニックを“どう使うか”が勝負である。何を“どう訴えかけるか”が勝負である。
要はあのキラキラとした輝きはサイラス・チェスナット主導の音楽ではなかったということ。ジョージ・ムラーツとルイス・ナッシュによって作られたサイラス・チェスナットの“虚像”であったのが残念でならない。

超一流のジャズメンのすぐ側で弾くサイラス・チェスナットのピアノはいつでもゴキゲンである。特に実際にヴォーカルが入るかどうかは関係なく,例えインストであっても「歌ものの伴奏」を演らせたら当代随一のピアニストである。
だからこそサイラス・チェスナットの資質を見極めたジョージ・ムラーツとルイス・ナッシュの凄さが分かる。
管理人はもう2度とサイラス・チェスナットのソロ・アルバムは購入しないが,サイラス・チェスナットの名前がサイドメンとしてクレジットされているだけで俄然聴いてみたくなる。
ソロでも化けろ! 化けてみろ! サイラス・チェスナット!
01. Sentimentalia
02. Steps Of Trane
03. The Mirrored Window
04. Baroque Impressions
05. A Rare Gem
06. Call Me Later
07. Wright's Rolls And Butter
08. It Is Well (With My Soul)
09. Kattin'
10. Lovers' Paradise
11. My Funny Valentine
12. The Dark Before The Dawn
13. Sometimes I'm Happy
CYRUS CHESTNUT : Piano
STEVE KIRBY : Bass
CLARENCE PENN : Drums
(アトランティック・ジャズ/ATLANTIC JAZZ 1995年発売/AMCY-1130)
(ライナーノーツ/リアンダー・ウィリアムズ,岩浪洋三)
(ライナーノーツ/リアンダー・ウィリアムズ,岩浪洋三)
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