IDENTITY-1 1970年代のフュージョン・シーンの台頭を切り開いた3グループがある。それが“電化”マイルスウェザー・リポートリターン・トゥ・フォーエヴァーである。

 この3グループは「マイルス・スクール」のメンバーが重なり合い,互いに刺激し合い,それぞれが異なるアイディアを形にするために別の道を歩むことになったわけだが,そんな3グループ全てに在籍した“唯一の”ジャズメンがいる。それがブラジリアン・パーカッショニストアイアート・モレイラである。

 アイアート・モレイラマイルス・デイビスによるフュージョン立ち上げの1枚である『ビッチェズ・ブリュー』から参加し,その後の“電化”マイルスの黄金期を駆け抜けた人物である。
 ウェザー・リポートにしてもリターン・トゥ・フォーエヴァーにしても,立ち上げメンバーとして名を連ねた人物である。つまりはマイルス・デイビスジョー・ザビヌルウェイン・ショーターチック・コリアたちと同列に位置するフュージョンの創生に深く関与した重要人物の1人なのである。

 マイルス・デイビスジョー・ザビヌルウェイン・ショーターチック・コリアアイアート・モレイラをなぜ必要としたのか? それこそがアイアート・モレイラの「アイデンティテイー」である。アイアート・モレイラの放つ,本物のブラジルのリズムなのだ。

 暴言を承知で書くならば,本物のブラジリアン・パーカッションは日本人には演奏できないし,アメリカ人にも演奏できない。本物のブラジリアン・パーカッションを演奏できるのは本場のブラジル人だけなのである。
 ここでいうブラジリアン・パーカッションとはリズム・キープ役としてのドラマーではなく,音楽に奥行きと色彩,果ては香りさえをも与える「空間構成家」としてのパーカッショニストのことである。

 この能力を欲していたマイルス・デイビスジョー・ザビヌルウェイン・ショーターチック・コリアにとってアイアート・モレイラが「抜きん出ていた」というわけである。それがゆえの3大グループへの“オリジナル・メンバー”入り!

 そんなアイアート・モレイラの「アイデンティテイー」がストレートに表現されたのが,ブラジリアン・クロスオーヴァーの名盤として名高い『IDENTITY』(以下『アイデンティテイー』)である。

IDENTITY-2 「キワモノ」一歩手前の雰囲気で,躍動的なメロディーが連続する“ブラジリアン・フレーバー推し”が徹底された『アイデンティテイー』で,アイアート・モレイラの「アイデンティテイー」であるブラジリアン・パーカッショニストの妙技が爆発している。

 ただし,そこは“スーパー・パーカッショニスト”のアイアート・モレイラである。マイルス・デイビスジョー・ザビヌルウェイン・ショーターチック・コリアのように1人では主役は張れない。
 「盟友」エグベルト・ジスモンチとの共作でメロディーをしたためている。

 最後に『アイデンティテイー』のジャケット写真の表面には,アイアート・モレイラの指紋が黒塗りされた写真が用いられ,ジャケット写真の裏面には,アイアート・モレイラのIDカード,証明書,パスポート写真が用いられている。
 このジャケット写真には「自分はブラジル人であり,どの国にも属さない」と言うアイアート・モレイラの主張であり「この音楽こそが自分自身であり,アイデンティテイーそのものだ」というメッセージなのであろう。

 いいや,アイアート・モレイラの“ハンドパワー”ポージング!? アイアート・モレイラが「きてます!」。

 
01. THE MAGICIANS (BRUXOS)
02. TALES FROM HOME (LENDAS)
03. IDENTITY
04. ENCOUNTER (ENCONTRO NO BAR)
05. WAKE UP SONG (BAIAO DO ACORDAR/CAFE)
06. MAE CAMBINA
07. FLORA ON MY MIND

 
AIRTO MOREIRA : Drums, Percussion, Vocals
WAYNE SHORTER : Soprano Saxophone
HERBIE HANCOCK : Synthesizer
FLORA PURIM : Vocals
DAVID AMARO : Guitar
EGBERTO GISMONTI : Piano
RAUL DESOUZA : Trombone
ROBERT : Drums, Percussion
TED LO : Organ
JOHN HEARD : Bass
JOHN WILLIAMS : Bass
LOUIS JOHNSON : Bass

(アリスタ/ARISTA 1975年発売/BVCJ-37116)
(ライナーノーツ/中原仁)

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