FINDING GABRIEL-1 現代のジャズ界を代表する“ジャズ・ピアニスト”であるブラッド・メルドーグラミー初受賞作は“非ジャズ・ピアニスト”なブラッド・メルドーであった。
 この事実が何とも悔しい。それが管理人にとっては『FINDING GABRIEL』(以下『ファインディング・ガブリエル』)の全てである。

 『ファインディング・ガブリエル』はブラッド・メルドーの「問題作」として“未来永劫”語り継がれる1枚になると思う。
 『ファインディング・ガブリエル』以前にもブラッド・メルドーは度々「問題作」をリリースしている。だから『ファインディング・ガブリエル』も“ジャズ・ピアニスト”である前に,ミュージシャンでありアーティストである“天才”ブラッド・メルドーのほんの一面にすぎない。

 でもどうしてもブラッド・メルドーの“天才”を知るファンとしては“ジャズ・ピアニスト”としてのブラッド・メルドーの音楽でグラミー賞受賞してほしかった。
 周りの評価もそうだが,何よりもブラッド・メルドー本人が非ジャズ系の音楽に色気を出して欲しくないからである。

 『ファインディング・ガブリエル』とは,聖書をモチーフとしたコンセプト・アルバムである。ゆえにパイプ・オルガン風のシンセサイザーが出てきたり,合唱隊のようなコーラストランペットも鳴っているが,正直これをもって,聖書をモチーフにしたアルバムと語ることには無理がある。
 そう。『ファインディング・ガブリエル』の裏テーマとは,ブラッド・メルドーの「怒り」なのだと思う。

FINDING GABRIEL-2 管理人の大好きな“ジャズ・ピアニスト”のブラッド・メルドーは,内面では怒ることもあるだろうが,音楽表現においては決して怒ってこなかったし,何があっても動揺しない「懐の深さ」を感じさせるスケールの大きなピアニストである。

 そんなブラッド・メルドーが,聖書という壮大なテーマに取り組んだと知ってフラゲして買った『ファインディング・ガブリエル』。
 1曲目の【THE GARDEN】は,強い物語性が豊かな音楽として展開されたお気に入りなのであるが,それでも聖書の壮大なスケール感を表現するまでには至らなかったという印象が拭えない。

 『ファインディング・ガブリエル』の音楽パートナーとして指名したマーク・ジュリアナ独特のドラミングは,ビート・マシンを血肉化したような,聖書の表現を借りればいかにもネフィリム的だと感じてしまう。つまりは演奏云々の前に曲想が個人的に好みではない。

 ブラッド・メルドー得意のハーモニーが,実験的な音楽表現の楔として見え隠れしているが,結局のところ最後に残るは「怒り」のみ。罪である「音の歪み」がこの上なく美しいということなのだろう。

 
01. The Garden
02. Born to Trouble
03. Striving After Wind
04. O Ephraim
05. St. Mark is Howling in the City of Night
06. The Prophet is a FOOL
07. Make It All Go Away
08. Deep Water
09. Proverb of Ashes
10. Finding Gabriel

 
BRAD MEHLDAU : Steinway C Grand Piano, Yamaha upright Piano, Fender Rhodes, Mellotron, Hammond B-3 organ, OB-6 Polyphonic Synthesizer, Therevox, Moog Little Phatty Synthesizer, Yamaha CS-60 synthesizer, Musser Ampli-Celeste, Morfbeats Gamelan Strips, Shaker, Handclaps, Voice, Drums
MARK GUILIANA : Drums, Electric Drums
AMBROSE AKINMUSIRE : Trumpet
MICHAEL THOMAS : Flute, Alto Saxophone
CHARLES PILLOW : Soprano Saxophone, Alto Saxophone, Bass Clarinet
JOEL FRAHM : Tenor Saxophone
CHRIS CHEEK : Tenor Saxophone, Baritone Saxophone
BECCA STEVENS : Voice
GABRIEL KAHANE : Voice
KURT ELLING : Voice
SARA CASWELL : Violin
LOIS MARTIN : Viola
NOAH HOFFELD : Cello

(ノンサッチ/NONESUCH 2019年発売/WPCR-18208)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/柳樂光隆,ブラッド・メルドー)

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