POESY-1 フルート奏者の「世界的権威」である中川昌三は2種類の「アーティスト表記」を持っている。
 中川昌三とはジャズフルート奏者としての名前であり,それ以外のクラシックや現代音楽のフルート奏者の場合は中川昌巳表記となる。活動内容によって「アーティスト表記」を変えることで,自分の中の「別人格」へのスイッチが入るのだろう。

 さて,この2種類の「アーティスト表記」に中川昌三の音楽性の秘密がある。
 つまり中川昌三あるいは中川昌巳というミュージシャンは,フルート界の大家でありながらもフルートをメインに吹き上げることを目的とした演奏をしてはいない人。

 そう。フルートの音色がどうとか,フルートの響きが先にあるのではなく,中川昌三の時にはフルートの前にジャズという音楽があり,中川昌巳の時にはフルートの前にクラシック音楽があるのだ。

 そんな中川昌三ジャズメン魂の記録が『POESY』(以下『ポエジィ』)にある。
 『ポエジィ』は,ジャズフルート奏者に扮した中川昌三が,ピアノリッチー・バイラークベースジョージ・ムラーツドラムルイス・ナッシュという“大御所”ががっぷり四つに組んだ名盤である。

 それまでの中川昌三のイメージとしては,確かにジャズフルートを演奏しているのだが,どことなく中川昌巳の一面が顔を出す感じの“爽やか”ジャズフルートであったのだが『ポエジィ』の中川昌三は,真にジャズ中川昌三を名乗っている。
 いや〜,ジャズメンに徹した中川昌三さんがカッコイイのです。

POESY-2 そもそもがECMのカラーで名を売ってきたリッチー・バイラークなのだから,フルートとの相性はチリバツである。そして『ポエジィ』の楽曲はリッチー・バイラークが得意とする有名ジャズスタンダード集。
 そう。『ポエジィ』は,完全にリッチー・バイラークに“寄せた”企画盤なのである。

 そんなリッチー・バイラークのホームに乗り込んだ形の中川昌三の「匠の技」が真に凄い。
 フルートという楽器はその特性上,音色が霞がちで音量も小さい。“やったもん勝ち”なジャズ界において,連戦連勝で勝ち残ってきたツワモノ3人組。クラシックを兼務している中川昌三なんかコテンパだ…,と管理人は勝手に想像していたものだ。

 ところがどうだろう。中川昌三リッチー・バイラークピアノ・トリオを押している。その結果として,手垢のついたジャズスタンダードが“気品高き”名曲へと昇華している。柔らかく深遠なトーンが“格調を帯びている”。

 そんな中川昌三がリードするリッチー・バイラークピアノ・トリオが“湿度高め”でまったりと楽しめますよっ。

 
01. ALL THE THINGS YOU ARE
02. BEAUTIFUL LOVE
03. MILESTONES
04. ELM
05. ROUND MIDNIGHT
06. ORIENTAL FOLK SONG
07. ALL BLUES
08. SOME OTHER TIME
09. AUTUMN LEAVES

 
MASAMI NAKAGAWA : Flute, Alto Flute, Bass Flute
RICHIE BEIRACH : Acoustic Piano
GEORGE MRAZ : Acoustic Bass
LEWIS NASH : Drums

(ビクター/JVC 1992年発売/VICJ-95)

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