ALL RIGHT-1 「菊池ひみこ,海を渡る」。それが『ALL RIGHT』(以下『オーライ』)失速の最大要因である。

 『ドント・ビー・ステューピッド』でホップして『フラッシング』でステップして『オーライ』でジャンプを決める。
 そんなシナリオが立てられた中?菊池ひみこが向かったのは,アメリカはLAの「マッド・ハッター・スタジオ」。則ちチック・コリアのお膝元である。

 1982年当時のチック・コリアは「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を解散しアコースティックジャズに燃えていた時期である。
 菊池ひみことしては,ブラジリアン・フュージョンで「天下を獲った」チック・コリアに,それもジャズを志向中のチック・コリアに感じるものがあったのだろう。

 しかし『オーライ』は“中途半端な”チック・コリアとの共同制作。これが『オーライ』の敗因であろう。
 『オーライ』のプロデューサーは「マッド・ハッター・スタジオ」を使用するのにチック・コリアではなく松本正嗣であった。共演者もチック・コリアの人脈としてはアル・ビズッティくらい。他はアーニー・ワッツにしてもジョン・ロビンソンにしてもスティーヴ・フォアマンにしてもリー・リトナー関連の色合いが強い。

 『オーライ』のレコーディングの様子をチック・コリアがのぞきに来たそうであるが,総指揮を取ったは松本正嗣
 保険として杉本和弥を引き連れて渡米した松本正嗣であったが,自身にとっても初体験となる海外レコーディングリー・リトナー組を思い通りに操るにはまだまだ経験が不足していたように思う。
 『オーライ』の音はLAらしくカラッとしているようでいて,実はポップではないし,重くタイトなリズムはどちらかというとNYのイメージに近いと思う。

ALL RIGHT-2 個人的には世界TOPのジョン・ロビンソンよりも風間幹也ドラミングの方が菊池ひみこの音楽性には合っている。もっと言えばバンドのメンバー全員「デッド・エンド」の方が良かった。
 それだけではなく菊池ひみこオリジナルも,変にブラジリアン・フュージョンに寄せた『オーライ』よりも『ドント・ビー・ステューピッド』や『フラッシング』の「全力日本」タイプの方が良かった。

 アメリカ制作は完全に無駄金だった。高い授業料を払わされたものだ。つまり国内制作の方が良かった。「菊池ひみこデッド・エンド」で録音した『ドント・ビー・ステューピッド』〜『フラッシング』路線の続編が良かった。

 『オーライ』で“狙った”ブライトなタッチのグルーヴィなフュージョンが得意なのは,菊池ひみこの方ではなくチック・コリアの方なのでした。

 
01. CALLING WAVES
02. ROLLING 40TH
03. THE POLESTAR
04. CRAZY MOON
05. PANCAKE ICE
06. HARD MEDITATION
07. BUNGER'S OASIS

 
HIMIKO KIKUCHI : Acoustic Piano, Keyboards, Vocal
ERNIE WATTS : Tenor Saxophone, Soprano Saxophone, Synthesizer Saxophone
AL VIZZUTTI : Trumpet
MASATSUGU MATSUMOTO : Electric Guitar
KAZUYA SUGIMOTO : Electric Bass
JOHN ROBINSON : Drums
STEVE FORMAN : Percussion

BRASS SECTION
AL VIZZUTTI : Trumpet
CHARLES DAVIS : Trumpet
JIM COWGER : Tenor Saxophone, Alto Saxophone
ALAN KAPLAN : Trombone

(テイチク/TEICHIKU 1982年発売/TEH-15)
(ライナーノーツ/油井正一,金澤寿和)

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