BUT NOT FOR ME-1 アーマッド・ジャマルの“最高傑作”が『BUT NOT FOR ME』(以下『バット・ノット・フォー・ミー』)である。

 “ジャズの帝王”マイルス・デイビスが演奏を聴くためにクラブに通い詰めた唯一のピアニストであり,マイルス・デイビスが自分のバンドにどうしても迎え入れたかったピアニストであり,それが叶わず,レッド・ガーランドに「彼のように弾いてくれ」と命令したピアニスト,それがアーマッド・ジャマルであった。

 マイルス・デイビスアーマッド・ジャマルの何に魅了されたのだろうか? それが『バット・ノット・フォー・ミー』で聴かせる,叙情性とアンサンブルの重ね方にあると思う。マイルス・デイビスも追求した“リリシズム”である。
 とにかく上品なのだ。とにかく優雅なのだ。ホテルのラウンジで生演奏を聴きたい第一位こそがアーマッド・ジャマルであろう。

 アーマッド・ジャマルピアノと来ればピアノ・トリオである。イスラエル・クロスビーベースバーネル・フォーニアドラムと組んで「3人で役割分担して1曲を仕上げるスタイル」は,アーマッド・ジャマルが開祖であろう。

 つまり,ベースドラムは一切ソロを取ることがない。ベースドラムアーマッド・ジャマルソロを取らせるためのスペース作りに専念している。
 ベースドラムの2人が曲の骨組みを組立てている。どのような外装にするか,どのような内装にするかは3人で決めている。

 そしてここがアーマッド・ジャマルの凄いところだと思うのだが,普通なら空いた空間を埋めるためにピアノを目立たせようと考えるものだろうが,アーマッド・ジャマルピアノを決して弾きすぎない。

BUT NOT FOR ME-2 そう。アーマッド・ジャマルは,弾く音を必要最低な音数に厳選し,シンプルな右手のフレーズと合いの手の様に入る左手のブロックコードで聴かせたいフレーズだけを浮かび上がらせる。
 「ピアノピアノの邪魔をしないピアノ」。アーマッド・ジャマルとはこれなのである。

 則ち,アーマッド・ジャマルの『バット・ノット・フォー・ミー』とは,後にマイルス・デイビスがやったモードの「さきがけ」のような演奏である。

 モードジャズを完成させたのは,マイルス・デイビスビル・エヴァンスギル・エヴァンスの3人に違いないが,アーマッド・ジャマルがいなければ,そもそもモードジャズは生まれなかった。
 ピアノ・トリオの「3人で役割分担して1曲を仕上げる」アーマッド・ジャマルの音楽こそが,マイルス・デイビスが愛した“リリシズム”なのである。

PS アーマッド・ジャマルはとにかく素晴らしい。そのアーマッド・ジャマルのスタイルを消化させたレッド・ガーランドも素晴らしい。しかし日本においてアーマッド・ジャマルの人気もレッド・ガーランドの人気もイマイチである。全てはビル・エヴァンスである。ビル・エヴァンスの登場がアーマッド・ジャマルレッド・ガーランドを無き者にしてしまった。この事実だけでもビル・エヴァンスの凄さが分かる。ビル・エヴァンスが圧倒的!

 
01. BUT NOT FOR ME
02. SURREY WITH THE FRINGE ON TOP
03. MOONLIGHT IN VERMONT
04. MUSIC, MUSIC, MUSIC
05. NO GREATER LOVE
06. POINCIANA
07. WOODY'N YOU
08. WHAT'S NEW

 
AHMAD JAMAL : Piano
ISRAEL CROSBY : Bass
BERNELL FOURNIER : Drums

(アルゴ/ARGO 1958年発売/UCCU-5128)
(ライナーノーツ/小川隆夫,児山紀芳)

アドリグをログするブログ “アドリブログ”JAZZ/FUSION