NO FUSE-1 カシオペアスクェアの「2強」だけではJ−FUSIONはここまで盛り上がらなかったと思っている。
 ここにキレイ目でもPOPでもない,松岡直也MALTAプリズムが絡んでいたからこそ,J−FUSIONがブームとなったと思っている。

 でもなんだかんだ言っても上述した5組の個性はそれぞれ異なっているものの,大きく分けると全部が全部「東京」である。シャカタクレベル42の「ブリティッシュ・ジャズ・ファンク」が,あれだけ盛り上がったのも,そこにアイスランドのメゾフォルテとオランダのフルーツケーキがいたからである。

 そんな「東京」のJ−FUSIONに立ち向かったのが「上方フュージョン」勢であり,その代表格が浪花エキスプレスであった。
 浪花エキスプレスの「スタイリッシュではない,パワー系の一発勝負インスト」が存在したからこそ,J−FUSIONがあそこまで盛り上がったのだ。

 そう。浪花エキスプレスの「異質な個性」が,カシオペアスクェアの音楽性を刺激して,磨き上げた張本人である。浪花エキスプレスの「異質な個性」が,フュージョン・ブームを“巻き起こした”張本人である。

 風貌からして,爽やか系ではなく野生児集団だったし,目玉はフロント陣ではなくリズム隊だったし,音楽性にしてもライトではなく重厚であった。
 要は「野暮ったい」&「泥臭い」田舎の実力者連合が全国進出してきた形。だ・か・ら&そ・ん・な・浪花エキスプレスが大好きだった。

 『NO FUSE』(以下『ノー・フューズ』)は,そんな浪花エキスプレスデビュー・アルバム。
 カシオペアスクェア等の「東京」のフュージョンとは明らかに違う“ガテン系”フュージョンの一番手であろう。

 清水興ベース東原力哉ドラムが「今も昔も」バンド全体を引っ張っていく構図は変わらないが『ノー・フューズ』におけるバンド・メンバーのクレジットは,青柳誠岩見和彦中村健児清水興東原力哉の順番である。
 バンドの紹介として最初にコ−ルされるのは,清水興東原力哉ではなくフロント陣という事実。作曲も全曲フロント3人の提供曲である。

 思うに『ノー・フューズ』の時点では,プロデューサーの伊藤八十八は,浪花エキスプレススクェアのように“メロディー推し”で売り出そうとしていたように思う。
 浪花エキスプレスの代表曲である,1曲目の【ビリービン】なんて本当に綺麗な名曲である。バンドの方針として青柳誠岩見和彦中村健児が作る美メロをフィーチャーした“メロディアスなNANIWA”としても十分に売っていけたと思う。

NO FUSE-2 しかし,5曲目の【高野サンバ】がそうであるように,どんなに豪華な上物が乗ろうともリズムの方が前に出てしまう。「頭隠して尻隠さず」的なNANIWAの個性がどうしても出てしまっている。

 これは音量とかミキシングの問題などではない。ベースドラムが暴れれば暴れるほどギターキーボードが歌いまくる相互関係。伊藤八十八も「NANIWAの体内に手を入れる」行為は『ノー・フューズ』1作だけであきらめたと読む。

 百戦錬磨の伊藤八十八をさえ,超重力級のパワーで説得した浪花エキスプレスのパワー・フュージョン。でもその実,青柳誠岩見和彦中村健児が奏でる“メロディーの美しさ”に多くのフュージョン・ファンが説得されたのも紛れもない事実なのである。

 キャッチーなメロディー,テクニカルな演奏,圧倒的な野生のビート。その全て兼ね備えた,非主流派の「上方フュージョン」出身バンド,「記録よりも記憶に残る」浪花エキスプレスの存在抜きにJ−FUSIONは語れやしない。

 
01. BELIEVIN'
02. THE STATE OF LIBERTY
03. BETWEEN THE SKY AND THE GROUND
04. BLUE WILLOW
05. THE KOYA-SAMBA
06. FIELD ATHLETOR
07. FOR MY LOVE

 
NANIWA EXPRESS
MAKOTO AOYAGI : Tenor Saxophone, Soprano Saxophone, Rhodes Electric Piano, Hohner Clavinet, Korg Trident Synthesizers
KAZUHIKO IWAMI : Electric Guitars
KENJI NAKAMURA : Mini-Moog, Prophet 5, Kenjitar, Korg Trident, Roland Vocorder-Plus, System 100 & 100M Synthesizers, Acoustic Piano, Rhodes Electric Piano
KOH SHIMIZU : Electric Bass
RIKIYA HIGASHIHARA : Drums

ARAKAWA BAND
TATSUHIKO ARAKAWA : Tenor Saxophone
SHIGEO FUCHINO : Tenor Saxophone, Baritone Saxophone
OSAMU SHIOMURA : Trombone
HITOSHI OKANO : Trumpet
TOSHIO ARAKI : Trumpet
KIYOSHI KAMADA : Drums (right channel)

SWEET AREA
SHUZOH HIRAYAMA : Percussion
KUNITSUGU HIRAYAMA : Percussion
SHINGO "CARLOS" KANNO : Percussion

KAZUHIRO MISHIMA : Surudo, Cuica
MARLENE : Vocals

(CBSソニー/CBS/SONY 1982年発売/CSCL 1288)
(スリムケース仕様)
(ライナーノーツ/岩浪洋三,白藤丈二)

アドリグをログするブログ “アドリブログ”JAZZ/FUSION