ECCENTRIX-1 実に濃厚な音楽である。細部まで綿密に作り込まれたアルバムである。TRIXの「本気で本気な」アルバム,それが『ECCENTRIX』である。

 管理人は知っている。TRIXはいつだって全力で音楽活動に取り組んできたことを…。
 熊谷徳明TRIXのために命を削っている。でもそんな,裏で血の滲む努力をしている姿を見せるのはカッコ悪いと思っている。難易度の高いことを涼しい顔してやってのけるのがカッコ良いと思っている。

 だから本当は超真面目な性格なのに,わざとチャライ・キャラを演じつつ,お茶目な振り付けをキメながらバカテクをキメまくる。これがTRIXのポリシーである。

 そう。例えるのならTRIXは芸能人である。TRIXは新庄剛志のようなフュージョン・バンドなのである。才能だけではない。パフォーマンスだけではない。人の見えない所で人一倍努力しているフュージョン・バンドなのである。

 そんなTRIXがバンド結成15年目にして初めて見せる「本気で本気な」TRIXが『ECCENTRIX』である。
 大量のオーバーダビングを繰り返し重ねている。従来ならカットしていたものであっても,少しでも良いと思えるもの要素があるのなら,相性など考えずに容赦なく全部詰め込んでいる。裏の努力を全部人前にさらして見せてきた。
 
 だから「本気で本気な」TRIXに圧倒されてしまった。だから『ECCENTRIX』に圧倒されてしまった。マジで物凄いアルバムである。
 『ECCENTRIX』は「顔はTRIX。中身はDIMENSION」と呼べる,今後の転機となるかもしれないアルバムだと思う。

 TRIXが今後も『ECCENTRIX』路線で攻めてきたらDIMENSIONのポジションがヤバイッ。
 でもDIMENSIONを攻略するにはまだ数年かかる。DIMENSIONが本気で築いてきたものを,そうたやすく真似することなどできるはずもない。
 事実「本気で本気な」TRIXは認めるが『ECCENTRIX』は,完成途上の力作という感じ。管理人の総合評価は星4つである。

 『ECCENTRIX』のテーマは「昆虫」である。TRIXで「昆虫」と来れば【クワガッタン】だったのだが『ECCENTRIX』で「TRIXの「昆虫」=【クワガッタン】」が上書きされた。

 そう。『ECCENTRIX』とは「昆虫大百科」のテーマ・ソング集である。全体の傾向としてはフュージョンよりロックに寄っている。全曲リーゼント・スタイルの「昆虫」が図鑑から飛び跳ねている感じ?

ECCENTRIX-2 今年の夏は天道虫を見つけたらYMOが流れてくるし,トンボを見つけたら唸るギターが流れてくるし,みんみん蝉ならシャッフル・ドラムが流れてくるし,逆に今まで生で見たことのない雪の天使に「韓流ドラマ」をイメージしたし,南米にだけ生息するヘラクレスオオカブトの写真を見るとガッツを感じた。

 そんな「昆虫大百科」の『ECCENTRIX』のハイライトが【ルリタテハの飛翔】である。TRIXらしさと対極にある,静かでシリアスで壮大でドラマティックな「世紀の大曲」!
 蝶の一生である「卵→幼虫→蛹→成虫」という完全変態がドラマ仕立ての映画を見ているように思えてしまう。凄いぞ,「本気で本気な」TRIX

 最後に王道のギターフュージョンど真ん中な【BEETLE TRAIN】が路線違いでポツンと収録。
 “爽やか系”の【BEETLE TRAIN】がメチャクチャ好き。“爽やか系”の佐々木秀尚の魅力爆発な推しナンバーである。

 
01. 中国天道虫
02. 極楽トンボ
03. 涙のみんみん蝉
04. 雪の天使
05. Hercules
06. バッハの隣
07. ルリタテハの飛翔
08. マグナムモスキート
09. Beetle Train

 
TRIX
NORIAKI KUMAGAI : Drums
MITSURU SUTOH : Bass
HIDEHISA SASAKI : Guitar
AYAKI : Keyboards

(キングレコード/KING RECORD 2019年発売/KICJ-829)

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