フリー・ジャズの最大の成果とは集団即興演奏の絶対領域を拡大したことであろう。
フリー・ジャズ以前のモダン・ジャズとは,アメリカやアフリカ発祥のブルースであり黒人の音楽であったのだが「何でもあり」のフリー・ジャズの登場は後の「ワールド・ミュージック」の走りとなった。
ドン・チェリーの『ETERNAL RHYTHM』(以下『永遠のリズム』)は,ジャズ・ファンの耳を民族音楽にまで向けさせた歴史的な名盤である。
『永遠のリズム』を聴いていると,ジャズという音楽をアメリカの黒人音楽といった狭い視野から眺めることなど許されない気分になる。アフリカは勿論,中近東,インド,東アジアなどの民族音楽の方にこそ,ジャズ発祥以前のジャズ,を感じると言うものだろう。
さて,バリ島のガムランにヒントを得て『永遠のリズム』を録音したドン・チェリーであるが『永遠のリズム』から聴こえてくるのは,多種多様な楽器からなる縦糸と多種多様なリズムからなる横糸である。つまりは1つずつの独立した楽器として識別されることのない音の固まりであり,幾つものリズム・パターンの同時進行である。
思うにドン・チェリーが民族音楽に接近した目的とは,民族音楽の中に“すでに完成されたフリー・ジャズ”が存在していることに気付いたからであろう。
古くて新しい集団即興演奏。それは古くて新しいリズムのことである。『永遠のリズム』におけるドン・チェリーの主張とは「リズムの氾濫こそがメロディーそのものである」という主張であった。「ジャズの命とはリズムであって,クリエイティブなリズムはメロディーにすら成り得る」ことを証明するための実験であった。
そんな「リズム至上主義」を実践したのが,打楽器奏者ではなくコルネット奏者のドン・チェリーだったことが最高に素晴らしい。感動物語である。
ドン・チェリーは『永遠のリズム』の中でコルネットも吹いてはいるが,メイン楽器は4種類のフルートを駆使したヘビ使いのような“笛”である。口に2本のマルチ・リードを銜えて“笛”を吹き鳴らしている。ドン・チェリーが何とも無垢で無邪気な音を吹いている。
しかし『永遠のリズム』に限っては,管理人の脳裏に浮かぶドン・チェリーの演奏シーンとはパーカッション奏者としてのドン・チェリーである。
元来は金管奏者なのだからドン・チェリーが叩き出すリズムは,ビートではなく単発で連続照射される「パルス」のようなリズムである。「パルス」なのだから『永遠のリズム』なのである。
コルネット奏者のドン・チェリーのイメージはシリアス。だけどパーカッション奏者のドン・チェリーはあっけらかんとしている。
ドン・チェリーのガムランの扱い方はバリ島の民族音楽の文脈からは離れている。単純に楽器の1つとしてガムランを使いこなしより深い場所で鳴らしている。
そう。ドン・チェリーの狙いとしては,真剣にガムランの演奏に取り組んだわけではない。フリー・ジャズには珍しい,面白いサウンド・エフェクトの1つとして民族楽器を試しに用いてみたという軽い感じ?
とりとめもない気分の推移をそのまま体現しているような,ドン・チェリーのガムランには,構成意識は希薄ながらも集団即興演奏としての出口が行き詰った時に「打開策」として響き渡るドラのようなものなのだと思う。
素朴で土着的な民族楽器の音色がフリー・ジャズの難解さや異様さを丁度良い塩梅へと調和してくれている。
一定の演奏様式に囚われる傾向が強いフリー・ジャズにおいて『永遠のリズム』の自由闊達さが見事である。
古くて新しい集団即興演奏と古くて新しいリズム,そして民族音楽もブルースもカーニバル風な音楽の素材が「パルス」というキーワードで見事にまとめ上げられている。
本当に集団即興演奏でここまでできるものなのか? アルバム・タイトル『永遠のリズム』は伊達ではない! 『永遠のリズム』のドン・チェリーが無茶苦茶にカッコ良い!
01. ETERNAL RHYTHM PART I
02. ETERNAL RHYTHM PART II
DON CHERRY : Cornet, Gender(Gamelan), Saron(Gamelan), Bengali Flute, Bamboo Flute, Metal Flute, Plastic Flute, Haitian Guard, Northern Bells, Voice
ALBERT MANGELSDORFF : Trombone
EJE THELIN : Trombone
BERNT ROSENGREN : Tenor Saxophone, Oboe, Clarinet, Flute
SONNY SHARROCK : Guitar
KARL BERGER : Vibes, Piano, Gender(Gamelan)
JOACHIM KUHN : Piano, Prepared Piano
ARILD ANDERSEN : Bass
JACQUES THOLLOT : Drums, Saron(Gamelan), Gong, Bells, Voice
フリー・ジャズ以前のモダン・ジャズとは,アメリカやアフリカ発祥のブルースであり黒人の音楽であったのだが「何でもあり」のフリー・ジャズの登場は後の「ワールド・ミュージック」の走りとなった。
ドン・チェリーの『ETERNAL RHYTHM』(以下『永遠のリズム』)は,ジャズ・ファンの耳を民族音楽にまで向けさせた歴史的な名盤である。
『永遠のリズム』を聴いていると,ジャズという音楽をアメリカの黒人音楽といった狭い視野から眺めることなど許されない気分になる。アフリカは勿論,中近東,インド,東アジアなどの民族音楽の方にこそ,ジャズ発祥以前のジャズ,を感じると言うものだろう。
さて,バリ島のガムランにヒントを得て『永遠のリズム』を録音したドン・チェリーであるが『永遠のリズム』から聴こえてくるのは,多種多様な楽器からなる縦糸と多種多様なリズムからなる横糸である。つまりは1つずつの独立した楽器として識別されることのない音の固まりであり,幾つものリズム・パターンの同時進行である。
思うにドン・チェリーが民族音楽に接近した目的とは,民族音楽の中に“すでに完成されたフリー・ジャズ”が存在していることに気付いたからであろう。
古くて新しい集団即興演奏。それは古くて新しいリズムのことである。『永遠のリズム』におけるドン・チェリーの主張とは「リズムの氾濫こそがメロディーそのものである」という主張であった。「ジャズの命とはリズムであって,クリエイティブなリズムはメロディーにすら成り得る」ことを証明するための実験であった。
そんな「リズム至上主義」を実践したのが,打楽器奏者ではなくコルネット奏者のドン・チェリーだったことが最高に素晴らしい。感動物語である。
ドン・チェリーは『永遠のリズム』の中でコルネットも吹いてはいるが,メイン楽器は4種類のフルートを駆使したヘビ使いのような“笛”である。口に2本のマルチ・リードを銜えて“笛”を吹き鳴らしている。ドン・チェリーが何とも無垢で無邪気な音を吹いている。
しかし『永遠のリズム』に限っては,管理人の脳裏に浮かぶドン・チェリーの演奏シーンとはパーカッション奏者としてのドン・チェリーである。
元来は金管奏者なのだからドン・チェリーが叩き出すリズムは,ビートではなく単発で連続照射される「パルス」のようなリズムである。「パルス」なのだから『永遠のリズム』なのである。
コルネット奏者のドン・チェリーのイメージはシリアス。だけどパーカッション奏者のドン・チェリーはあっけらかんとしている。
ドン・チェリーのガムランの扱い方はバリ島の民族音楽の文脈からは離れている。単純に楽器の1つとしてガムランを使いこなしより深い場所で鳴らしている。
そう。ドン・チェリーの狙いとしては,真剣にガムランの演奏に取り組んだわけではない。フリー・ジャズには珍しい,面白いサウンド・エフェクトの1つとして民族楽器を試しに用いてみたという軽い感じ?
とりとめもない気分の推移をそのまま体現しているような,ドン・チェリーのガムランには,構成意識は希薄ながらも集団即興演奏としての出口が行き詰った時に「打開策」として響き渡るドラのようなものなのだと思う。
素朴で土着的な民族楽器の音色がフリー・ジャズの難解さや異様さを丁度良い塩梅へと調和してくれている。
一定の演奏様式に囚われる傾向が強いフリー・ジャズにおいて『永遠のリズム』の自由闊達さが見事である。
古くて新しい集団即興演奏と古くて新しいリズム,そして民族音楽もブルースもカーニバル風な音楽の素材が「パルス」というキーワードで見事にまとめ上げられている。
本当に集団即興演奏でここまでできるものなのか? アルバム・タイトル『永遠のリズム』は伊達ではない! 『永遠のリズム』のドン・チェリーが無茶苦茶にカッコ良い!
01. ETERNAL RHYTHM PART I
02. ETERNAL RHYTHM PART II
DON CHERRY : Cornet, Gender(Gamelan), Saron(Gamelan), Bengali Flute, Bamboo Flute, Metal Flute, Plastic Flute, Haitian Guard, Northern Bells, Voice
ALBERT MANGELSDORFF : Trombone
EJE THELIN : Trombone
BERNT ROSENGREN : Tenor Saxophone, Oboe, Clarinet, Flute
SONNY SHARROCK : Guitar
KARL BERGER : Vibes, Piano, Gender(Gamelan)
JOACHIM KUHN : Piano, Prepared Piano
ARILD ANDERSEN : Bass
JACQUES THOLLOT : Drums, Saron(Gamelan), Gong, Bells, Voice
(MPS/MPS 1969年発売/UCCU-5184)
(ライナーノーツ/ヨアヒム・E・ベーレント,高井信成,今井正弘)
(ライナーノーツ/ヨアヒム・E・ベーレント,高井信成,今井正弘)