LIVE BERLIN-1 『LIVE BERLIN』は,初期ウェザー・リポートの“超お宝”ライブDVD
 この時期の映像作品はほとんど皆無。なのに超高画質。しかも抜群のカメラワーク。このテープの存在は衝撃。『LIVE BERLIN』をブートと承知で“最高級の貴重品”と言い切ってしまおう。とにかく「買い」である。

 初期ウェザー・リポートと来れば「集団即興演奏」であり「すべてがソロでありすべてがソロでないグループ」のキャッチ・コピーであろう。
 そう。初期ウェザー・リポートのサウンドは,フュージョンに行く前の超アブストラクト時代のアシッド系のカタルシス! 初期ウェザー・リポートの“混沌”としたサウンドは,電化マイルスに通ずるエグさを残しつつも,電化マイルスの音世界からの脱却を目指したフリー・ジャズの手法が炸裂する! “複雑でミステリアスな緊張感”と黒くはないが“確かなリズムのうねり”を体感できる。

 『LIVE BERLIN』は『I SING THE BODY ELECTRIC』のレパートリーである【DIRECTION】【DR HONORIS CAUSE】を収録している。
 しかしニュアンスとしては,すでに次作『LIVE IN TOKYO』の世界に突入している。つまりは暗く難解な「集団即興演奏」の世界を消化し,少しずつ明るい躍動感が表出してきた時期のスタジオ・ライブの世界である。

 この変化の原因はベーシストミロスラフ・ヴィトウスの成長である。ウェザー・リポート二等辺三角形のNO.3だったミロスラフ・ヴィトウスが双頭NO.1のジョー・ザビヌルウェイン・ショーターアドリブを仕切っている。ヴィトウスの下克上時代である。

 『LIVE BERLIN』の主役はウェイン・ショーターである。
 ウェイン・ショーターソプラノ・サックスが,ジョン・サーマンアラン・スキッドモアエイエ・テリンのツワモノ3人のホーンズを束ねて,ウェザー・リポート全体を昇天へと導いていく! ウェイン・ショーター〜! 最高〜! アグレッシブ〜!

 しかし管理人は『LIVE BERLIN』を繰り返し見続けているうちに,今までは気付かなかったミロスラフ・ヴィトウスベースに釘付けになってしまった。
 ミロスラフ・ヴィトウスベーシスト。『LIVE BERLIN』の画面に登場するシーンも少ない&目立たない。でも音を追い続けていくと確実にベース・ラインに呼応する自分に気付く。
 主役であるウェイン・ショーターソプラノ・サックスに見入っていたようで,全てはミロスラフ・ヴィトウスベース・ラインを楽しんでいたのだった。

 どこからこんなベース・ラインを持ってくるのか? 管理人が聴き続けてきた名ベーシストたちの誰とも異なる不可解なベース・ラインが鳴っている。どこまでも挑発的でイマジニティブなベース・ラインにウェイン・ショーターが乗せられている。
 ミロスラフ・ヴィトウスの持つ硬質なノリ。凶暴で大胆なエフェクトが初期ウェザー・リポートのサウンド・カラーを成している。そう確信させてくれる。やっぱりバンドの要はベーシストである。

LIVE BERLIN-2 このミロスラフ・ヴィトウスの特異なベース・ラインを解釈できたウェイン・ショーターの才能は凄いと思う。
 ジョー・ザビヌルはというと“チープな”エレピのせいなのか? ミロスラフ・ヴィトウスウェイン・ショーターの融合についていけていない。この時点でのウェザー・リポートは「3分の3ではなく3分の2」。
( 注:次作『LIVE IN TOKYO』でウェザー・リポートは3分の3となりバンド・サウンドが固まりました )

 それでこれだけは言っておく! 『LIVE BERLIN』時点でのミロスラフ・ヴィトウス体制を脅威に感じたジョー・ザビヌルミロスラフ・ヴィトウスを“潰した”のが,中期〜後期の“ザビヌル王朝”ウェザー・リポートの歴史と見る!

 ジョー・ザビヌルの“鉄拳制裁”によって”大器のライバル”ミロスラフ・ヴィトウスは葬られた。しかしこの追放劇は,中期〜後期のウェザー・リポートにとっては幸福な別れとなった。
 仮にあのまま順調に成長するミロスラフ・ヴィトウスが『LIVE BERLIN』のように皇帝として君臨するようなことがあれば,ウェザー・リポートアルフォンソ・ジョンソンジャコ・パストリアスビクター・ベイリーといったミロスラフ・ヴィトウスを超える凄腕ベーシストたちが加入することもなかったのだから…。

 
01. DIRECTIONS
02. DR HONORIS CAUSE

 
WEATHER REPORT
JOE ZAWINUL : Keyboards
WAYNE SHORTER : Tenor Sax, Soprano Sax
MIROSLAV VITOUS : Bass
ALPHONSE MOUZON : Drums
DOM UM ROMAO : Percussions, Flute
JOHN SURMAN : Bass Clarinet, Baritone Saxophone
ALAN SKIDMORE : Tenor Sax, Flute
EJE THELIN : Trombone

(FOOTSTOMP/FOOTSTOMP 2006年発売/FSVD-150)

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