この記事は「スーパートリビア」の「グラミー賞 ジャズ部門」との連動記事です。

 「スーパートリビア」の記事で記したように,CD購入済の「グラミー・受賞作」(または「グラミー・ノミネート作」)の“お祝いレビュー”(あるいは“残念レビュー”)をUPいたします。
 それで読者の皆さん,お断り&再確認しておきますが,レビューするのは既に所有済のCDだけですから〜。追加購入はしませんから〜。

 なお,現在「アドリブログ」の「JAZZ/FUSION CD批評」では“1アーティスト1枚縛り”で絶賛レビュー中ですが「グラミー受賞・ノミネート」は“1アーティスト1枚縛り”ノーカウントといたします。
 こうなるとパット・メセニーとかチック・コリアとかマイケル・ブレッカーとかのレビュー数が突出する? まぁ,いずれは所有CDを全枚レビューすることになるので,早いか遅いか,の違いだけ!? なお,この連動記事は特別企画ゆえにトラック批評もノーカウントといたします。
 


Category 47 - Best Jazz Instrumental Solo ; Why Was I Born?Sonny Rollins, soloist / Track from: Without A Song - The 9/11 Concert

 
WITHOUT A SONG [THE 9/11 CONCERT]-1 『WITHOUT A SONG [THE 9/11 CONCERT]』(以下『ウィザウト・ア・ソング(9.11コンサート)』)は,2001年9月15日に行なわれたアメリカはボストンにおけるソニー・ロリンズライブ盤である。つまりはあの「9.11」から,わずか4日後の演奏の記録である。

 本当のところは「9.11」が大きく影響しているのだろうが,管理人にはそうは思えなかった。『ウィザウト・ア・ソング(9.11コンサート)』の演奏が明るい。何なら「お祝い」の場のような華やかな演奏である。

 これをソニー・ロリンズから聴衆への“特別な励まし”と捉えることもできるだろう。でもそれは違う。未曾有の惨劇のわずか4日後,誰も平常心ではいられない時間帯に,ソニー・ロリンズは「平常心」でコンサートに臨んでいる。いつも通りに演奏したから,結果,明るく華やか演奏ができたのだ。

 そう。『ウィザウト・ア・ソング(9.11コンサート)』の名演は,ソニー・ロリンズの「強靭な精神力」の賜物である。
 “テナーの巨人”と称されるソニー・ロリンズには,いろいろなことがあった。演奏家として過去に2回引退したことがある。本当のソニー・ロリンズという人は,弱い人であり,ナイーブな人であり,悩める大男である。

 そんなソニー・ロリンズが,全米が,いいや,全世界が窮地に陥った時に,これほどまでに明るく華やかな演奏ができたことに驚いたが,これは至極当然の結果である。
 弱い弱いは昔の話。事実,ソニー・ロリンズは2回目の引退から復帰して,もう30年以上,休むことなく現役のTOPを張り続けてきたのだ。「強靭な精神力」を持ち合わせていなければ,こんな息の長い演奏活動など送れるものではない。

 自分にブレない。他の人にも影響されない。なんだかんだで特にマイルストーンに移籍してからのソニー・ロリンズは,アルバム毎に企画の違いがあるだけで本質的にはどれも同じ演奏である。
 だからこそ悪夢のような「9.11」に見舞われても,いつも通りの演奏ができたのだろう。マンネリやルーティンワークは全部が全部悪いことばかりではないのだ。
 そんなソニー・ロリンズの30年のルーティンワークの真価が,図らずも「9.11」によって炙り出された,というのが『ウィザウト・ア・ソング(9.11コンサート)』のハイライト!

 “テナーの巨人”の別次元のアドリブに,傷心の観客の心が揺さぶられていく。心の痛みや絶望の気持ちが,ソニー・ロリンズの持つ「ふるいに掛けられ」愛,希望,勇気が手元に残される。
 今生きている幸福,ジャズを楽しめる幸福,そして将来の希望に向けて歩き出す。正しく『WITHOUT A SONG』なるコンサートであった。

WITHOUT A SONG [THE 9/11 CONCERT]-2 ライナーノーツに書かれているが「9.11」当日のソニー・ロリンズは,世界貿易センタービルのそばにある自分のアパートで「体当たり」の衝撃を感じ,ビルの崩壊を目の当たりにしながら現場から避難したそうである。それで一時は予定されていたボストンでのコンサートの中止も考えたようである。

 しかし,ひとたびステージに上がる決断を下してからは,精神状態はグダグダであっても,こと即興演奏に関しては一切ブレない&揺るがない。テナーサックスを手にするとテロへの恐怖の震えが止まると書くべきか,心と体は別と書くべきか,完成した『ウィザウト・ア・ソング(9.11コンサート)』には「9.11」の影が一切ない。

 ソニー・ロリンズの内側から湧き出てくるメロディー・ラインの生命力が素晴らしい。こういうリラックスさせられて騒ぎたくなるようなジャズマンはソニー・ロリンズの他にはいないことだろう。
 どこまでもいっても陽気で観客を元気づけるサウンドには,音楽だけが持つ「特別な力」を否応なく感じさせられる。もはや技術がどうとか,閃きがどうとか,そういう問題ではなく,一音一音に魂を込めてブイブイと吹き上げる姿に感動を覚える。

 若い頃はずっとソニー・ロリンズが「NO.1」だった。キース・ジャレットに開眼するまでは,ジャズと言えばソニー・ロリンズのことだった。
 久々にソニー・ロリンズを聴いて感動できた。改めてソニー・ロリンズに「尊敬の念」を抱いている自分が感じられた。他の誰でもなく,ずっと大好きだったソニー・ロリンズと久々に無心で向き合うことができた。これがうれしくてうれしくて…。

 
01. Without A Song
02. Global Warming
03. Introductions
04. A Nightingale Sang In Berkeley Square
05. Why Was I Born?
06. Where Or When

 
SONNY ROLLINS : Tenor Saxophone
CLIFTON ANDERSON : Trombone
STEPHEN SCOTT : Piano
BOB CRANSHAW : Bass
PERRY WILSON : Drums
KIMATI DINIZULU : Percussion

(マイルストーン/MILESTONE 2005発売/VICJ-61283)
(ライナーノーツ/児山紀芳)

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ART BLAKEY & THE JAZZ MESSENGERS 『アット・ザ・ジャズ・コーナー・オブ・ザ・ワールド Vol.1