この記事は「スーパートリビア」の「グラミー賞 ジャズ部門」との連動記事です。

 「スーパートリビア」の記事で記したように,CD購入済の「グラミー・受賞作」(または「グラミー・ノミネート作」)の“お祝いレビュー”(あるいは“残念レビュー”)をUPいたします。
 それで読者の皆さん,お断り&再確認しておきますが,レビューするのは既に所有済のCDだけですから〜。追加購入はしませんから〜。

 なお,現在「アドリブログ」の「JAZZ/FUSION CD批評」では“1アーティスト1枚縛り”で絶賛レビュー中ですが「グラミー受賞・ノミネート」は“1アーティスト1枚縛り”ノーカウントといたします。
 こうなるとパット・メセニーとかチック・コリアとかマイケル・ブレッカーとかのレビュー数が突出する? まぁ,いずれは所有CDを全枚レビューすることになるので,早いか遅いか,の違いだけ!? なお,この連動記事は特別企画ゆえにトラック批評もノーカウントといたします。
 


Category 48 - Best Jazz Instrumental Album, Individual or Group ; Beyond The Sound BarrierWayne Shorter Quartet

 
BEYOND THE SOUND BARRIER-1 テナーサックス界において,ソニー・ロリンズジョン・コルトレーンの“2大巨匠”の次,と来ればウエイン・ショーターであろう。

 ただし,ウエイン・ショーターを語るとすれば,アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズとかマイルス・デイビスのバンドとかウェザー・リポートとかの「バンドの絶対に外せない主要メンバー」としての活動が中心となる。
 ウエイン・ショーターソロについて語るとすればブルーノート名盤群が有名ではあるが,ウェザー・リポートにしても,実態はジョー・ザビヌル主導であったし「ウエイン・ショーターと来ればコレ!」という活動はほぼないに等しい。

 その類まれな音楽性で共演のオファーが引っ張りだこ。大物たちのニュー・アルバムにはウエイン・ショーターの名前がちらほら。ウエイン・ショーターとしう“天才”はデビュー以来常に“売れっ子”であって,自身のレギュラー・バンドを率いなくとも何の不足もないほどに充実した演奏活動を続けている。

 そんなウエイン・ショーターが,突然,人生初となるリーダー・バンドを結成した。名前は「フットプリンツ」である(ただし公式にはウエイン・ショーター・カルテット表記)。
 テナーサックスソプラノサックスウエイン・ショーターピアノダニーロ・ペレスベースジョン・パティトゥッチドラムブライアン・ブレイドの4人組である。

 「フットプリンツ」の成果は『FOOTPRINTS LIVE!』に明らかであるが,当初はウエイン・ショーターのカリスマ性ばかりが話題になっていたが,徐々にメンバー全員の優れた音楽性とバンド・サウンドの完成度の高さから,一気にウエイン・ショーター以外のメンバーにも注目が集まったことを覚えている。真に今のブライアン・ブレイドがあるのはウエイン・ショーターのおかげだと思う。

 そんな「バンド・リーダー」ウエイン・ショーターが率いる「フットプリンツ」の第2弾が『BEYOND THE SOUND BARRIER』(以下『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』)である。

 『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』も『FOOTPRINTS LIVE!』と同じく,ワールド・ツアーのハイライトを編集したライブ盤である。
 『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』と『FOOTPRINTS LIVE!』の一番の違いは,旧曲の新アレンジ集の『FOOTPRINTS LIVE!』に対して『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』は新曲中心。本来『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』とは
ウエイン・ショーターの新作としてスタジオで録音されるべき性質の音楽である。

 ではなぜウエイン・ショーターは『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』をスタジオ盤ではなくライブ盤として録音したのだろうか?
 その答えこそが,ウエイン・ショーターの音楽性の核心であり,ウエイン・ショーターが突然バンドを組んだ理由につながるものである。
 そう。ウエイン・ショーターが考える「ウエイン・ショーターと来ればコレ!」の理想形とは「一発録り」だと思う。

 ウエイン・ショーターの“天才”には2つある。その1つは演奏家としての,誰もが欲しがるテナーサックスの最高の音であり,2つ目は名作曲家としての側面である。
 特にウエイン・ショーターウエイン・ショーター足るのは,この音楽はどこまでが書き譜でどこからがアドリブなのか,聴き込んでいくうちにそういう疑問がふと頭をもたげる音楽である。そうしていつしか,ウエイン・ショーターというブラックホールの頭の中にしかその答えがないことに気付かされ,ウエイン・ショーターの凄さ,懐の深さ,偉大さにKOされてしまう音楽である。

BEYOND THE SOUND BARRIER-2 ゆえに行き着くところは「一発録り」。スタジオで「一発録り」するくらいならばライブで全公演の全テイクを録音するのが最善の選択。だからこそ『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』の編集指針は「一夜のライブ盤の完全収録ではなく,全録音の最良のトラックを厳選したライブ盤」。これぞ「擬似スタジオ盤」の真骨頂である。

 『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』のハイライトとは,ウエイン・ショーターが主導する「色濃い個性のバンド・サウンド」にある。
 ウエイン・ショーターがスカウトした極上のリズム・セクションは,アコースティックでのメインストリーム・ジャズだというのに普通の4ビートは叩いていない。どの曲もフリーのようであってもそこまでには至らず,解体しそうで意外なまとまりがあり,ある一線を超えてしまったような微妙なニュアンスが独特な唯一無二のバンド・サウンドである。

 ズバリ,ウエイン・ショーター以外のソロをほぼ回避するスリリングでインタラクティブな演奏である。緊張感に溢れたメンバーの対峙がリアルに捉えられている。絶妙な結束と爆発的な発見の音楽的な会話である。
 そう。これが「ウエイン・ショーターの音楽」なのである。

 
01. Smilin' Through
02. As Far as the Eye Can See
03. On Wings of Song
04. Tinker Bell
05. Joy Ryder
06. Over Shadow Hill Way
07. Adventures Aboard the Golden Mean
08. Beyond the Sound Barrier
09. Zero Gravity

 
WAYNE SHORTER : Tenor Saxophone, Soprano Saxophone
DANILO PEREZ : Piano
JOHN PATITUCCI : Bass
BRIAN BLADE : Drums

(ヴァーヴ/VERVE 2005年発売/UCCV-1073)
(ライナーノーツ/村井康司)

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