
趣旨からして当然ながら日本のジャズ・ファンのニーズをくすぐる内容になるので,一般的には人気盤となるのだが,マニアックなジャズ・ファンは「日本企画盤」を嫌う傾向がある。しかし,虚心坦懐に耳を傾ければ魅力的なアルバムばかりなので,管理人は「日本企画盤」もオリジナル・アルバムの1枚として受け入れている。
そんな「日本企画盤」の代表格が,ハンク・ジョーンズの「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」とデビッド・マシューズの「マンハッタン・ジャズ・クインテット」であろう。 ← この裏付け理由は「スイングジャーナル主催 ジャズ・ディスク大賞」受賞履歴をご参照ください。
ハンク・ジョーンズに目を付けた「日本企画盤」の企画者は偉い! 「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」をきっかけに,オールランド・スタジオ・ミュージシャンだったハンク・ジョーンズの興味をジャズ・ピアノに振り向かせたのだから企画者は偉い!
ひとえに「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」と言っても,メンバーが激しく入れ替わっているので,ハンク・ジョーンズのソロ・プロジェクトを表わす言葉になっているのは,デビッド・マシューズの「マンハッタン・ジャズ・クインテット」と同様である。
そんな「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」のデビュー盤は,ベースをバスター・ウィリアムス,ドラムをトニー・ウィリアムスが務めた『LOVE FOR SALE』(以下『ラヴ・フォー・セール』)である。
これが曰く付きであって,何と!『ラヴ・フォー・セール』前日の「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」の録音は,渡辺貞夫との『I’M OLD FASHIONED』なのだが,ベースがバスター・ウィリアムスではなくロン・カーターである。
なぜたった1日でベーシストが交代したのかは不明であるが,恐らくは渡辺貞夫との相性で言えばロン・カーターであり,ハンク・ジョーンズのソロ名義では20数年ぶりとなる,純粋なピアノ・トリオを聴かせるとすればバスター・ウィリアムスという選択だったのだろう。
つまり『ラヴ・フォー・セール』の「影の主役」はバスター・ウィリアムスのベースにある。
「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」の第一期のサウンドは,ハンク・ジョーンズの味のあるバップ・ピアノと,トニー・ウイリアムスのロックンロールなドラミングを繋ぐベースがバスター・ウィリアムスだと,よりトニー・ウイリアムス寄りになり,ロン・カーターだとハンク・ジョーンズ寄りになるのが特徴である。

トニー・ウイリアムスのドラミングを強調させるがための,バスター・ウィリアムスのエッジの利いたがベース,という選択なのだろう。バスター・ウィリアムスのブンブンと引き締まったベース・ラインの存在が,トニー・ウイリアムスをジャズに引き留めているし,それ故にハンク・ジョーンズをジャズ・ピアノへと誘い出している。
『ラヴ・フォー・セール』での「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」は,その全てが上手くいった名盤なわけだが「フィーチャリング・トニー・ウイリアムス」な【LOVE FOR SALE】がとりわけ素晴らしく,ピアノではなくドラムで聴かせる「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」の真骨頂だと思っている。
残念ながらベースをバスター・ウィリアムスが務めた「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」は『ラヴ・フォー・セール』1枚で終了。
バスター・ウィリアムス入りの「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」が最高とまでは言わないが,正直,もっともっとハンク・ジョーンズ一流の,ピアノではなくドラムで聴かせる「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」を聴いてみたかったと思わせる名盤である。
01. Love For Sale
02. Glad To Be Unhappy
03. Gee Baby, Ain't I Good To You
04. Secret Love
05. Someone To Watch Over Me
06. Autumn Leaves
THE GREAT JAZZ TRIO
HANK JONES : Piano
BUSTER WILLIAMS : Bass
TONY WILLIAMS : Drums
(イースト・ウィンド/EAST WIND 1976年発売/PHCE-4116)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)
詩編106編 彼らは神が行ったことをすぐに忘れた
THE SQUARE 『ザ・スクェア・ライヴ』