『LOVE FOR SALE』の5曲目は【SOMEONE TO WATCH OVER ME】(以下【誰かが私を見つめている】)。

 実にチャーミングな【誰かが私を見つめている】である。この手の「中道系」でピアノを転がせる演奏をさせればハンク・ジョーンズの右に出るピアニストは他には中々見つからない。ここがハンク・ジョーンズが「巨匠」と呼ばれる所以であろう。

 「巨匠」ハンク・ジョーンズと呼ばれつつも,ハンク・ジョーンズジャズの歴史を作ったわけでも,大傑作を作ったわけでもない。「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」以前のハンク・ジョーンズジャズ以外のスタジオ仕事でビッグ・ネームになっていた。それが故の「巨匠」であり常に音楽シーンの中心にいたハンク・ジョーンズは弾くからジャズピアノの幅と高さと深さが増している。弾きすぎることなく弾かなすぎることもない,絶妙な塩梅のジャズピアノはそうそうない。

 イントロから始まる1分3秒間のピアノソロは,バド・パウエルビル・エヴァンスがタッグを組んでも絶対に出すことのできない深い味わいがある。
 1分22秒から1分28秒の連弾といい,中盤でのトニー・ウィリアムスシンバルとのランダムな打ち合いといい,アドリブから“歌”が聴こえてくるこの感じは,ハンク・ジョーンズジャズというよりハンク・ジョーンズピアノとして生活してきた長年のスタジオ仕事の成果であろう。

 そう。ハンク・ジョーンズの往年のスタジオ仕事が「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」で見事に花開いている!
 ジャズピアノの「大巨人」の演奏もいいが,オーソドックスな「巨匠」のピアノに救われる日も数多い。「付かず離れず」のハンク・ジョーンズとの距離感は実に貴重なものである。

 
THE GREAT JAZZ TRIO
HANK JONES : Piano
BUSTER WILLIAMS : Bass
TONY WILLIAMS : Drums

LOVE FOR SALE-1
LOVE FOR SALE
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詩編108編 人間に救いを求めても無駄
T-SQUARE 『ヒューマン