OH!-1 「自分のしたいことと他人から求められることは違う」。ウィル・リーの『OH!』はそんなアルバムである。

 世界的なセッションベーシストであるウィル・リーの“本気のベース・プレイ”を聴いてみたい! そう思って購入した『OH!』は,ベースは脇役に徹した完全なる“ヴォーカル・メイン”のアルバムであった。
 ガビーンの肩透かしで『OH!』は『OH! NO!』なアルバムであった。

 しかし,時間の経過と共にウィル・リーの演奏に数多く接するにつれて『OH!』が『OH! YES!』なアルバムへと変化した。
 管理人の方がウィル・リーのことを勘違いしていた。ウィル・リーにとっての「自分のしたいこと」とは,実はもっとベースを弾きまくることなのに「他人から求められること」とは,的確なベースを後ろで弾くことと,前に出て美声で歌を歌うことだったのだ。

 『OH!』について語る場合,これがウィル・リーの1stソロ・アルバムだと言う情報は欠かせない。実にプロとして開始して20年目の1stソロ。“超売れっ子”なウィル・リーからしたら信じられない「遅咲き」であろう。
 ただし,これがセッションベーシストの現実である。恐らくは『OH!』を,ベース弾きまくりのソロ・アルバムとして企画したのなら,未だこの世にウィル・リーソロ・アルバムは存在しないかもしれない。
 そう。世間一般の音楽ファンにとってはウィル・リーと来れば,セッションベーシストではなくヴォーカリストなのだから…。

 管理人とウィル・リーとの出会いは「ブレッカー・ブラザーズ」である。フュージョン史に名前を残す超テクニカルなバンドである。
 しかし「ブレッカー・ブラザーズ」とは,例えば「チュク・コリア・エレクトレック・バンド」と同じで,バリバリの凄テクというよりも割とPOPな印象を持っている。そんな「ブレッカー・ブラザーズ」の個性を彩ったのは,ベーシストヴォーカリストウィル・リーであった。

 あんな超豪華な演奏をバックにリードを取れるヴォーカリストはそうそういない。バンドの中心にいたウィル・リーだからこそ務まった「大役」だったと思っている。そう思ってからは一気に管理人の中の“ヴォーカリストウィル・リーの記憶がつながっていく。
 渡辺貞夫と共演した時にも“ヴォーカリストウィル・リーフィーチャリングされていたし,パイオニアのCMソングになった「ニューヨーカーズ」の【愛のサスペンス】なんかは,ベーシストヴォーカリストではなく,ヴォーカリストベーシストウィル・リーの一択であった。

OH!-2 そしてトドメは「24丁目バンド」。「24丁目バンド」のヴォーカリストはずっとギターヴォーカリストハイラム・ブロックだと思っていたのだが,昨年再発された「24丁目バンド」の2nd『SHARE YOUR DREAMS』を聴いて,ハイラム・ブロックもいいがウィル・リーがもっと素晴らしい,と思ってしまった。
 ハイラム・ブロックウィル・リーが楽曲に合わせてリード・ヴォーカルを交互に取り合う所が,他の類似フュージョン系・バンドとは区別され,人気を得た大きな魅力だと思う(ここから先の詳細は「24丁目バンド批評をカミングスーン!)。

 思うにウィル・リーベースとは,アンサンブルの中で光るベースである。ウィル・リーとしては,もっとベースを前面に押し出したアルバムを作りたかったことだろうが,ウィル・リーの個性からしてジャコ・パストリアスのようなベースソロ・アルバムは正直似合わない。

 ウィル・リーソロ・アルバムは,わいわいガヤガヤとしたツワモノの中でバンド全体を確実にコントロールできるベースが光る,例えばスティングのようなアルバムが良い。
 だから『OH!』は“ヴォーカリストウィル・リー推し! ただし管理人は“スーパー・ベーシストウィル・リーをもっともっと聴いてみたい!

 
01. Maryanne
02. Georgy Porgy
03. Kissing My Love
04. I Know Too Much (About Sadness)
05. Show Of Hands
06. Ballad Of Bill And Gretchen
07. Driftin
08. I Came To Play
09. Lonely Avenue
10. White Man
11. My Funny Valentine

 
WILL LEE : Vocals, Bass, Synth, Synth Bass Programming, Drum Programming, Backing Vocals
CHUCK LOEB : Guitar
JOHN TROPEA : Guitar
JEFF MIRONOV : Guitar
FELICA COLLINS : Guitar
HIRAM BULLOCK : Guitar
JEFF BECK : Guitar Solo
JOE CARO : Guitar Solo
DON GROLNICK : Keyboards, Piano, Organ
ROB MOUNSEY : Keyboards
CHRIS HAJIAN : Loops, Synth Programming, Additional Keyboards, , Drum Programming, Backing Vocals
BILL LEE : Piano Solo
PAUL SHAFFER : Organ
CHRIS PARKER : Drums
STEVE GADD : Drums
CHARLEY DRAYTON : Drums
STEPHEN FERRONE : Drums
ANTON FIG : Drums
BASHIRI JOHNSON : Percussion
LEW SOLOFF : Trumpet
RANDY BRECKER : Trumpet, Flugelhorn
TOM MALONE : Trombone
BRUCE KAPLER : Saxophone
BOB MALACH : Saxophone
BABI FLOYD : Backing Vocals
FRANK FLOYD : Backing Vocals
JANICE PENDARVIS : Backing Vocals
LANI GROVES : Backing Vocals
GAYLE SCOTT : Backing Vocals
VANEESE THOMAS : Backing Vocals

(ゴー・ジャズ/GO JAZZ 1994年発売/PSCS-5015)
(ライナーノーツ/松下佳男,坂上晃一,松永紀代美,ウィル・リー)

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