海外に渡った日本人ジャズメンのレジェンドと来れば,アメリカの秋吉敏子とヨーロッパの高瀬アキ,の2人の女性ピアニストであろう。
アメリカの秋吉敏子の方は,もはや説明不要の大御所である。「世界の小曽根真」からも未だに大絶賛されているレジェンド級のレジェンドである。ではヨーロッパの高瀬アキの方はどうか?
恥ずかしながら管理人が高瀬アキのアルバムを聴いたのはここ10年弱の話である。ECM好きを公言しているくせして(加えてフリー・ジャズ好きも公言しているというのに)ヨーロピアン・ジャズがブームになるまではヨーロピアン・ジャズに対して興味も持たなかった。
だから高瀬アキの,管理人にとっては初めてのアルバム『ABC』を聴いた時の“衝撃”が大きかった。『ABC』は間違いなくフリー・ジャズである。そして間違いなくヨーロピアン・ジャズである。
そう。『ABC』の真実とは「リリカルな前衛」であった。こんなにもクリエイティブな音楽を日本人が演奏しているという知識は当時の管理人は無かった。個人的には高瀬アキ以降,ブラッド・メルドーが登場して打ちのめされるまではピアニストにここまで驚かされた記憶はない。
フリー・ジャズの“フレイヴァー”を散りばめながらも,メロディー集中で力強く歌い上げる高瀬アキのジャズ・ピアノを「ドラマチックなジャズ・ピアノ」と表現したら伝わるだろうか…。
『ABC』で感じた“衝撃”の理由は「J−ジャズ+ヨーロピアン・ジャズのブレンダー」としての際立った個性にある。
高瀬アキは芸術音楽の都=ヨーロッパの舞台で,アメリカ的ではない「ヨーロッパにかぶれた」ジャズを演奏している。アドリブを弾いているのに,どこか曲の構成がかっちりとまとまっている印象を受ける。
この辺のニュアンスが実に日本人的な「ヨーロッパかぶれ」をしているし,高瀬アキの「ヨーロッパかぶれ」が本物のレベルだから出来上がった音楽だと言えるだろう。
『ABC』での高瀬アキが純日本的なメロディーを現地の言葉で歌っている。それもピアノ・トリオの濃密なインタープレイでブレンドして飛び出てくる。こんなジャズ・ピアノはこれまで1度も聴いたことがない。
奇をてらったフリー・ジャズ・フォーマット以上に,セシル・マクビーのベースとボブ・モーゼスのドラムとの,美メロをスパイスとしてフリー・ジャズ・フォーマットへふりかける,共同作業のような演奏であって過激な崩しを強調する場面は一切ない。
ふいを突かれることのない,耳に優しいフリー・ジャズ。安心して高瀬アキのジャズ・ピアノに耳を傾けることができる。
読者の皆さんにも『ABC』をじっくりと聴いてほしいと思う。何時間聴いていても疲れることのない,珍しいフリー・ジャズの1枚である。
まるでクラシックを演奏しているかのような高瀬アキのピアノの音色が美しい。高瀬アキのパッショネイティブでありながら,濁りのないピアノ・タッチがお洒落だと思うし,セシル・マクビーのベースと共鳴しながら連打される快感の嵐。いたぶっているはずなのに表向きは清楚系でリリカルに響いていく。ウオーッ!
そんな高瀬アキのピアノの上に,シェイラ・ジョーダンの“エンジェル・ヴォイス”が乗るという奇跡! まだ出会って10年の付き合いではあるのだが『ABC』は,今でも管理人の選ぶフリー・ジャズの名盤の地位を守り続けている。
高瀬アキとブラッド・メルドー以上の“衝撃”に早く出会いたいものだが,正直,本心ではあきらめかけている…。
01. I Hear Your Music
02. Dohkei
03. Down Dance
04. Arishihi No Evans
05. ABC
06. Subconscious Lee
07. Silent Night
08. Jan. 19th. -Dedicated to my mother-
AKI TAKASE : Piano
CECIL McBEE : Bass
BOB MOSES : Drums
SHEILA JORDAN : Voice
テサロニケ第一4章 人に干渉しない
石原江里子 『ディス・クレイジー・タウン』
アメリカの秋吉敏子の方は,もはや説明不要の大御所である。「世界の小曽根真」からも未だに大絶賛されているレジェンド級のレジェンドである。ではヨーロッパの高瀬アキの方はどうか?
恥ずかしながら管理人が高瀬アキのアルバムを聴いたのはここ10年弱の話である。ECM好きを公言しているくせして(加えてフリー・ジャズ好きも公言しているというのに)ヨーロピアン・ジャズがブームになるまではヨーロピアン・ジャズに対して興味も持たなかった。
だから高瀬アキの,管理人にとっては初めてのアルバム『ABC』を聴いた時の“衝撃”が大きかった。『ABC』は間違いなくフリー・ジャズである。そして間違いなくヨーロピアン・ジャズである。
そう。『ABC』の真実とは「リリカルな前衛」であった。こんなにもクリエイティブな音楽を日本人が演奏しているという知識は当時の管理人は無かった。個人的には高瀬アキ以降,ブラッド・メルドーが登場して打ちのめされるまではピアニストにここまで驚かされた記憶はない。
フリー・ジャズの“フレイヴァー”を散りばめながらも,メロディー集中で力強く歌い上げる高瀬アキのジャズ・ピアノを「ドラマチックなジャズ・ピアノ」と表現したら伝わるだろうか…。
『ABC』で感じた“衝撃”の理由は「J−ジャズ+ヨーロピアン・ジャズのブレンダー」としての際立った個性にある。
高瀬アキは芸術音楽の都=ヨーロッパの舞台で,アメリカ的ではない「ヨーロッパにかぶれた」ジャズを演奏している。アドリブを弾いているのに,どこか曲の構成がかっちりとまとまっている印象を受ける。
この辺のニュアンスが実に日本人的な「ヨーロッパかぶれ」をしているし,高瀬アキの「ヨーロッパかぶれ」が本物のレベルだから出来上がった音楽だと言えるだろう。
『ABC』での高瀬アキが純日本的なメロディーを現地の言葉で歌っている。それもピアノ・トリオの濃密なインタープレイでブレンドして飛び出てくる。こんなジャズ・ピアノはこれまで1度も聴いたことがない。
奇をてらったフリー・ジャズ・フォーマット以上に,セシル・マクビーのベースとボブ・モーゼスのドラムとの,美メロをスパイスとしてフリー・ジャズ・フォーマットへふりかける,共同作業のような演奏であって過激な崩しを強調する場面は一切ない。
ふいを突かれることのない,耳に優しいフリー・ジャズ。安心して高瀬アキのジャズ・ピアノに耳を傾けることができる。
読者の皆さんにも『ABC』をじっくりと聴いてほしいと思う。何時間聴いていても疲れることのない,珍しいフリー・ジャズの1枚である。
まるでクラシックを演奏しているかのような高瀬アキのピアノの音色が美しい。高瀬アキのパッショネイティブでありながら,濁りのないピアノ・タッチがお洒落だと思うし,セシル・マクビーのベースと共鳴しながら連打される快感の嵐。いたぶっているはずなのに表向きは清楚系でリリカルに響いていく。ウオーッ!
そんな高瀬アキのピアノの上に,シェイラ・ジョーダンの“エンジェル・ヴォイス”が乗るという奇跡! まだ出会って10年の付き合いではあるのだが『ABC』は,今でも管理人の選ぶフリー・ジャズの名盤の地位を守り続けている。
高瀬アキとブラッド・メルドー以上の“衝撃”に早く出会いたいものだが,正直,本心ではあきらめかけている…。
01. I Hear Your Music
02. Dohkei
03. Down Dance
04. Arishihi No Evans
05. ABC
06. Subconscious Lee
07. Silent Night
08. Jan. 19th. -Dedicated to my mother-
AKI TAKASE : Piano
CECIL McBEE : Bass
BOB MOSES : Drums
SHEILA JORDAN : Voice
(テイチク/UNION JAZZ 1982年発売/30CH-105)
(ライナーノーツ/内田修)
(ライナーノーツ/内田修)
テサロニケ第一4章 人に干渉しない
石原江里子 『ディス・クレイジー・タウン』