『ABC』の2曲目は【DOHKEI】(以下【憧憬】)。

 【憧憬】は,シェイラ・ジョーダンの独唱からバトンを受けた高瀬アキピアノの独唱で幕を開ける,これぞ「ドラマチックなジャズ・ピアノ」である高瀬アキの本領発揮ナンバー。

 ハッキリ言ってハンパない。【憧憬】の構成力がハンパない。
 映画音楽とかドラマの主題歌とか,それも昭和の日本の懐かしさが込み上げてくるような現代J−POPの大ヒット・バラード,の一節から始まる導入部ですでに涙腺が崩壊する。

 リスナーの目から涙がこぼれ落ちたのを確認するや否や,1つ目のミッションをクリアーした高瀬アキが,セシル・マクビーベースボブ・モーゼスドラムを自らの音世界へと招き入れる。
 ガラッと景色の変わったピアノ・トリオアドリブがものの見事に連続し,わらべ歌を思わせるテーマとは裏腹に,一体感に満ちた即興演奏が次第にテンポアップしながら,フリージャズ・フォームの世界に足を踏み入れてゆく。

 ひとしきり熱いフリージャズを聴かせた後,夏の終わりに聞こえてくる歌声が,シェイラ・ジョーダンの“エンジェル・ヴォイス”リターンズで最高峰の演奏が完結する。

 「叙情詩の大作」である【憧憬】は,1つの曲の中に,アメリカンなカントリーやフォ−ク,日本的なわらべ歌や歌謡曲,ヨーロピアンなクラシック,そしてフリージャズの要素が凝縮され,それが破綻することなく見事に調和している。

 高瀬アキとはキース・ジャレットパット・メセニーの親戚なのか?
 【憧憬】のサウンド生成の完璧な構成力に高瀬アキというジャズメンのワールド・クラスの想像力に観念して膝まづいてしまうだけ。

 
AKI TAKASE : Piano
CECIL McBEE : Bass
BOB MOSES : Drums
SHEILA JORDAN : Voice

ABC-1
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テサロニケ第二1章 不従順な人々への報復
THE SQUARE/T-SQUARE 『WORDLESS ANTHOLOGY V − MASAHIRO ANDOH SELECTION & REMIX