
つまりハード・バップ誕生のドキュメントを記録したのがアート・ブレイキー・クインテットの『バードランドの夜』であれば『銀巴里セッション』は,それから9年後の島国で独自の発展を遂げることになるJ−ジャズ黎明期の記録である。
ニューヨークのジャズ・クラブ「バードランド」と東京・銀座のシャンソンの殿堂「銀巴里」に集まったジャズ・ファンの熱気と高揚感は同じである。
面白い音楽ではない。楽しい音楽でもない。しかしこの2枚に共通しているのは「初めて耳にする音楽」「新しい音楽」の創造への実験でありチャンレンジである。
即ち『バードランドの夜』にしても『銀巴里セッション』にしても,後の完成形と比べれば「未成熟」のジャズである。
ただし,現在のジャズ・ファンがさも当然のように楽しんでいるマイルス・デイビスの名盤にしてもジョン・コルトレーンの名盤にしても『バードランドの夜』を通過しなければ産み出されていない。渡辺貞夫の名盤にしても日野皓正の名盤にしても『銀巴里セッション』を通過しなければ産み出されていない。
その意味で,内容はそれなりかもしれないが,繰り返し聴き込むなら,輝くダイヤモンドの原石がゴロゴロ。管理人の『銀巴里セッション』の評価は星4つなのだが歴史的な価値を感じさせる貴重な1枚だと思う。
「新世紀音楽研究所」とは,主宰する高柳昌行の元に集まった,同じくギターの中牟礼貞則と宇山恭平,トランペットの日野皓正,ピアノの菊地雅章と山下洋輔,ベースの金井英人と稲葉国光,ドラムの富樫雅彦と山崎比呂志から成る,新しいジャズを創造しようとする「音楽の政策集団」であろう。
『銀巴里セッション』が記録されたあの当時は学生運動が盛んな時代であった。ジャズという音楽が戦後の日本を支配したアメリカ文化の象徴の1つだったのだから,政治や社会だけではなく音楽においてもアメリカからの脱却を図ろうと考えるのは自然な流れなのだろう。
「新世紀音楽研究所」というネーミングに高柳昌行の元に集まった面々の意気込みと生真面目さを強く感じてしまう。
先に書いたが『銀巴里セッション』は「未成熟」のジャズである。変化を求めて研究していたのだろうが『銀巴里セッション』の成果が出るのはこの数年後,70年代後半に“花開く”ことになるフリー・ジャズ・ブームの到来まで待たねばならない。
『銀巴里セッション』の時点では,あの高柳昌行でさえ「正面向いて」メインストリーム・ジャズを演奏している。

高柳昌行,日野皓正,菊地雅章,富樫雅彦,山下洋輔が世界レベルで評価されている理由が「新世紀音楽研究所」でのオリジナリティの追求という“修行”のおかげに違いない。
その設立当初はアメリカのジャズ文化と戦っていた「新世紀音楽研究所」の面々であるが,その戦いは時代の成熟と共にやがて,前衛であることと自分自身の創造力,オリジナリティの追求という戦いへと変化して,ついに日本独特のフリー・ジャズ文化という“大輪の花”を咲かせてくれた。
歴史的に見ても新しいジャズ・フォーマットの登場は,フリー・ジャズ以降にはフュージョンしか出てきていない。新しいジャズを創造するとはそういうことなのである。
あっ,日本独特のフリー・ジャズの“百花繚乱”に魅了されている事実に偽りはないが,正直,J−ジャズと来ればフリー・ジャズには行かなかったメインストリーム方面の渡辺貞夫,菊地雅章,日野皓正の方を愛聴しています。
あっ,日本独自の発展を遂げた世界に誇るジャズ文化と来れば,フリー・ジャズ以上にJ−フュージョンでしょ!?
01. GREENSLEEVES
02. NARDIS
03. IF I WERE A BELL
04. OBSTRUCTION
MASAYUKI TAKAYANAGI : Guitar
SADANORI NAKAMURE : Guitar
KYOHEI UYAMA : Guitar
TERUMASA HINO : Trumpet
MASABUMI KIKUCHI : Piano
YOSUKE YAMASHITA : Piano
HIDETO KANAI : Bass
KUNIMITSU INABA : Bass
MASAHIKO TOGASHI : Drums
HIROSHI YAMAZAKI : Drums
(スリー・ブラインド・マイス/THREE BLIND MICE 1972年発売/MHCP-10023)
(紙ジャケット仕様)
(☆SACDハイブリッド盤仕様)
(ライナーノーツ/内田修,瀬川昌久,藤井武)
(紙ジャケット仕様)
(☆SACDハイブリッド盤仕様)
(ライナーノーツ/内田修,瀬川昌久,藤井武)
テモテ第二1章 健全な言葉に絶えず従う
アンソニー・ブラクストン 『イン・ザ・トラディション VOL.1』