SPIRITS REJOICE-1 とかく前衛というのは誤解されやすい。アルバート・アイラーについても,余りにも極端な意見が先行した結果,ジャズ入門者に敬遠されそうなキワモノ的なポジションに置かれてしまったのは大きな損失であろう。
 確かに,あの「志村けん」的な異次元のフレージングを拒絶するジャズ・ファンは多いだろうし,全ての原因はアルバート・アイラーの演奏スタイルにあるのだから,それはそれで致し方無いことだと思う。

 ジャズ・ジャーナリズムの本来の役割とは,読者にアルバート・アイラーという「壁」を乗り越えてみるように手助けするものだろうが,その「壁」の高さを何倍にも高くして「壁」の傾斜を水平ではなく垂直に傾けることで,絶対的な権威を守ろうとする。
 アルバート・アイラージャズ・ジャーナリズムの一番の被害者であろうし,その結果,アルバート・アイラーから離れてしまったジャズ・ファンも被害者の1人であろう。

 全てのジャズ・ファンよ,「アルバート・アイラーを聴け!」(by 中山康樹風)。絶対に悪くないから…。
 まぁ,最高とまでは言わない。個人的にもアルバート・アイラーは愛聴していない。最近は年に1回聴くか聴かないかの状態である。しかしそれでもアルバート・アイラーをじっくりと聴いてみたから分かることがたくさんあった。

 具体例を挙げるなら,アルバート・アイラーを聴いていると,キース・ジャレットがなぜピアノ・トリオベーシストゲイリー・ピーコックを指名したかが理解できるようになった。
 ゲイリー・ピーコックアルバート・アイラー流のフリージャズを経験したという事実が,キース・ジャレットにとっては意味があることが分かるようになる。実はこれと同じようなことがジョン・コルトレーンセシル・テイラーにも起こっている。

 そう。アルバート・アイラーの音楽が理解できるようになると,フリージャズを,そしてモダンジャズ全般を聴く楽しみが「倍加」する。間違いない。だから「アルバート・アイラーを聴け!」「アルバート・アイラーは若いうちに聴いておけ!」。そしてこれから記すが「せめて『スピリッツ・リジョイス』だけでも聴いておけ!」〜。

 『SPIRITS REJOICE』(以下『スピリッツ・リジョイス』)はライブ盤であり,アルバート・アイラーテナーサックスチャールス・タイラーアルトサックスと実の弟であるドナルド・アイラートランペットが加わった3管編成,しかもダブル・ベース,さらにハープシコードが1トラックで加わった超変則編成盤である。

 本来ならアルバート・アイラーの1枚と来れば“ごった煮”ライブ盤の『スピリッツ・リジョイス』ではなく『SPIRITUAL UNITY』『MY NAME IS ALBERT AYLER』『SPIRITS』といった人気盤から入るのが一般的だと思う。
 何たって,難解とされるフリージャズ界の代表格であるわけだし…。

 その意味で『スピリッツ・リジョイス』は,トリッキーな編成が逆に功を奏した成功例。初めからごちゃごちゃした演奏だから,アルバート・アイラーの特異さが薄まっているし,繰り返し聴いて,アルバート・アイラーの音楽の本質が理解できたなら,恐らくは「死ぬまで楽しむことができる1枚」として,常に手元に置いておきたくなるアルバムだと思う。

SPIRITS REJOICE-2 そう。『スピリッツ・リジョイス』には,アルバート・アイラーの「肉声」が収められている。それもとびっきり自然体の実に表情豊かでリアルな質感を持った「肉声」が記録されている。
 読者の皆さんの周りにも,クセの強い方言を話す人や年配で何を話しているのかさっぱり分からないな人が,それでも自分の言いたいことを分かってくれるまでしつこく意見を主張してくる人がきっと1人はいるでしょ?

 まず押さえておきたいのは,アルバート・アイラーの音楽の根っ子は,ブルースではなくマーチング・バンドにあるということ。その意味で『スピリッツ・リジョイス』を聴いて,軍楽隊の行進曲をイメージできたら正解であろう。
 アルバート・アイラーが軍楽隊の一員として「お祝いパレード」を行進している時の演奏である。アルバート・アイラーが街のメイン通りを,一歩一歩,足を前に出して「自分自身の魂を揺さぶりながら」演奏していく。

 『スピリッツ・リジョイス』でのアルバート・アイラーの実にナチュラルな演奏が,心の奥深くまで染み込んでくる感動もののテナーサックスである。
 マーチング・バンドのようなテーマと,激しい集団即興演奏とが交互に現れては繰り返され,ジャズの野生のグルーヴが整列された行進曲が素晴らしい。

 『スピリッツ・リジョイス』でのヒューマンな演奏は,大袈裟ではなく「魂までが揺さぶられる」。アルバート・アイラーの激しいフレージングは,戦闘終了後のパレードではなく,今まさに戦闘中をイメージするかもしれないが決してそうではない。激しさの中にも悲哀があって慈愛に満ちたヴィブラートで震えている。

 
01. Spirits Rejoice
02. Holy Family
03. D.C.
04. Angels
05. Prophet

 
ALBERT AYLER : Tenor Saxophone
DON AYLER : Trumpet
CHARLES TYLER : Alto Saxophone
HENRY GRIMES : Bass
GARY PEACOCK : Bass
SUNNY MURRAY : Drums
CALL COBS : harpsichord

(ESP/ESP 1966年発売/TKCZ-79102)
(ライナーノーツ/ジョン・リトウェイラー,悠雅彦)

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啓示22章 全てのものが新しくされる
和泉宏隆トリオ 『ビヨンド・ザ・リバー