この記事は「スーパートリビア」の「グラミー賞 ジャズ部門」との連動記事です。

 「スーパートリビア」の記事で記したように,CD購入済の「グラミー・受賞作」(または「グラミー・ノミネート作」)の“お祝いレビュー”(あるいは“残念レビュー”)をUPいたします。
 それで読者の皆さん,お断り&再確認しておきますが,レビューするのは既に所有済のCDだけですから〜。追加購入はしませんから〜。

 なお,現在「アドリブログ」の「JAZZ/FUSION CD批評」では“1アーティスト1枚縛り”で絶賛レビュー中ですが「グラミー受賞・ノミネート」は“1アーティスト1枚縛り”ノーカウントといたします。
 こうなるとパット・メセニーとかチック・コリアとかウェイン・シューターとかのレビュー数が突出する? まぁ,いずれは所有CDを全枚レビューすることになるので,早いか遅いか,の違いだけ!? なお,この連動記事は特別企画ゆえにトラック批評もノーカウントといたします。
 


Category 45 - Best Contemporary Jazz Album ; Miles From IndiaBob Belden, producer

 
MILES FROM INDIA-1 「インドから来たマイルス」。『MILES FROM INDIA』(以下『マイルス・フロム・インディア』)を制作したボブ・ベルデンのコンセプトは明確である。

 存命中にマイルス・デイビスインド音楽に接近した楽曲は多い。ただし『マイルス・フロム・インディア』ほど,ストレートに『フロム・インディア』したことはなかった。
 『マイルス・フロム・インディア』とは,ボブ・ベルデンが想像する「インドから来たマイルス」なのだが,これがドンピシャリである。

 マイルス・デイビスインドに渡ったとしたら,マジでこんな音楽を作ったことと思う。ここまでインド音楽に接近したマイルス・デイビスを掘り下げたボブ・ベルデンについては流石としか言いようがない。管理人はボブ・ベルデンに「インドから来たマイルス」とは,こういうものだ,と完全に摺り込まれてしまった。

 そう。ボブ・ベルデンが『マイルス・フロム・インディア』で,あぶりだしたかったのはマイルス・デイビスの本質である。
 『マイルス・フロム・インディア』成功の秘訣とは,実際にマイルス・デイビスと共演したことのあるジャズメンの起用にある。マイルス・デイビスをリアルに体験した彼らだから,そこにマイルス・デイビスがいるかのように演奏できたし,インド音楽の精鋭たちが何人混じろうとも,常に「マイルスなしのマイルスの音」を演奏することが可能だったように思う。何しろマイルス・デイビスとは,自分でトランペットを吹くことなしに自分の音楽を演奏する達人だったのだから…。

 ボブ・ベルデンが『マイルス・フロム・インディア』でスポットライトを当てたのは,1970年代のマイルス・デイビスの「混沌」である。
 強引に極論を書けれ,全ディスコ・グラフィーで唯一カテゴライズ不能な『オン・ザ・コーナー』でのシタールフィーチャリング。これである。

 ただしボブ・ベルデンをしても『オン・ザ・コーナー』の姉妹盤は制作できなかった。そのことをボブ・ベルデンも自覚したので,製作の途上で『オン・ザ・コーナー』の姉妹盤から路線を広げて1970年代全般のマイルス・デイビスにスポットライトを当て直したように思う。
 そういう意味では【オール・ブルース】【ソー・ホワット】【ブルー・イン・グリーン】を選曲したのはハズレであろう。仮に「電化マイルス」一本に絞ってくれたなら,これだけの一大プロジェクトなのだからマイルス・デイビスの死後に発売されたマイルス・デイビストリビュートの“最高傑作”として,永遠に語り継がれる名盤になったのかもしれない。

 でも『マイルス・フロム・インディア』の問題はその3曲の選曲だけ。ボブ・ベルデンマイルス・デイビスの音楽とインド古典音楽に通奏する無限のリズム・シーケンス,パーカッションによる重層的リズム・シーケンスを見事に融合させている。
 特に素晴らしいのはマイルス・デイビスインド音楽に接近した意図を汲み取り,紐解き,音楽を再構築して具現化した部分である。ゆえに
マイルス・フロム・インディア』を聴いていると,マイルス・デイビス本人の「発掘盤」のような雰囲気がある。

MILES FROM INDIA-2 実はボブ・ベルデンの『マイルス・フロム・インディア』を購入したのはグラミー賞ノミネートされたことを知った後である。
 マイルス・デイビス大好き人間としては勿論,大いに興味があったが「インドから来たマイルス」なるコンセプトにキワモノの雰囲気を感じて購入までには至らなかった。日本のレコード大賞とは違ってグラミー・ノミネーションには保険がかかっている。個人的には何を買っても安心保証付きだと思っていますから…。

 だから余計に『マイルス・フロム・インディア』の名盤の意識が「押し寄せてくる」。キワモノで様子見だったアルバムを恐る恐る聞いてみたら,実はことのほか良かった,という経験を久しぶりにさせてもらった。
 聴いてみる前は,もっとインド臭が強烈に出ているのかと思いきや,インド臭はスパイスとして効く程度。インドの楽器が途切れることなく流れてはいるが,全体的に西洋風の小綺麗な演奏にまとまっているので,濃度高めな音圧なのに2周目からは意外に聴きやすい。

 テオ・マセロ亡き今,その後継者としてマイルス・デイビスの「発掘盤」絡みは全部ボブ・ベルデンに(中山泰樹にも)お任せてしてよいと思う。その意味で『マイルス・フロム・インディア』はボブ・ベルデンにとって,マイルス・デイビス・プロフェッショナルの「名刺代わりの1枚」になったと思う。
 とにもかくにも『マイルス・フロム・インディア』におけるボブ・ベルデンの“大仕事”に感謝&感謝である。キワモノ臭を恐れないで全てのマイルス・デイビス・ファンに聴いてほしい超大作!

 
DISC 1
01. SPANISH KEY
02. ALL BLUES
03. IFE (FAST)
04. IN A SILENT WAY
05. IT'S ABOUT THAT TIME
06. JEAN PIERRE

DISC 2
01. SO WHAT
02. MILES RUNS THE VOODOO DOWN
03. BLUE IN GREEN
04. GREAT EXPECTATIONS
05. IFE (SLOW)
06. MILES FROM INDIA

 
MILES ALUMNI
GARY BARTZ : Alto Saxophone, Soprano Saxophone
RON CARTER : Bass
JIMMY COBB : Drums
CHICK COREA : Piano
PETE COSEY : Guitar
MICHAEL HENDERSON : Bass
ADAM HOLZMAN : Keyboards
ROBERT IRVING III : Keyboards
DAVE LIEBMAN : Indian Flute, Flute, Tenor Saxophone
JOHN McLAUGHLIN : Guitar
MARCUS MILLER : Bass Clarinet
NDUGU CHANCLER : Drums
BENNY RIETVELD : Bass
WALLACE RONEY : Trumpet
BADAL ROY : Tabla
MIKE STERN : Guitar
LENNY WHITE : Drums
VINCE WILBURN, JR. : Drums

INDIAN MUSICIANS
GINO BANKS : Drums
LOUIS BANKS : Piano, Fender Rhodes, Keyboards
RAVI CHARI : Sitar
RAKESH CHAURASIA : Flute
SELVA GHANESH : Kanjira, Voice Percussion
SIKKI GURUCHARAN : Vocals
DILSHAD KHAN : Sarangi
SHANKAR MAHADEVAN : Vocals
RUDRESH MAHANTHAPPA : Alto Saxophone
PANDIT BRIJ NARAIN : Sarod
SRIDHAR PARTHASARATHY : Mridangam, Voice Percussion
TAUFIQ QURESHI : Djembe, Percussion, World Percussion, Voice Percussion
KALA RAMNATH : Violin
U. SHRINIVAS : Mandolin
A. SIVAMANI : Percussion
VIKKU VINAYAKRAM : Ghatam

(タイム・スクエアー/TIME SQUARE RECORDS 2008年発売/BVCJ-35111〜2)
(CD2枚組)
(ライナーノーツ/ボブ・ベルデン,小川隆夫)

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