MANA-1 「ドンシャリ」を1人で担う森山威男こそが,神保彰に代表されるテクニシャン勢を押しのけて,J−ジャズ界の「第一人者」だと思っている。

 森山威男の何がそんなに凄いのか? それは「桁外れで無尽蔵のパワー」である。まるで重戦車が全速力で驀進しているような趣きを帯びている。
 岡本太郎の「芸術は爆発だ」を地で行く「轟音のドラミング」は,さらなが地鳴りの音のようであり,いまだ聞いたことはないのだが大地震の時にはこんな音,を勝手にイメージさせてくれる。こんなドラマー森山威男の他には存在しない。あのエルヴィン・ジョーンズトニー・ウィリアムスでさえ森山威男には敵わない。森山威男ドラミングは「1人工事現場」であり「1人解体作業」なのである。

 森山威男の最初の数枚はそれでいいと思う。あの「轟音のドラミング」に耳が慣れるまでは単なる騒音だと思ってもいいと思う。いつかはきっと分かるから…。絶対に分かるようになるから…。轟音の中から「爆竹が鳴っているような音」が聴き取れるようになるのはもうすぐだから…。
 そして轟音の中からニュアンスや表情を掴むことができたら,最後の最後は1週回って「桁外れで無尽蔵のパワー」に驚嘆する。とにかく尋常ではない。

 森山威男の「轟音のドラミング」の代表作が『MANA』(以下『マナ』)である。
 『マナ』を初めて聞くとしたら,恐らく誰もがアンプのボリュームを絞ることだろう。集合住宅ではスピーカーから音を出すのに気を遣うような,激しさ100%のアルバムなので,森山威男ファンの管理人をして,最速でのお蔵入りとなった1枚である。

 そう。『マナ』のファースト・インプレッションは「ただうるさいだけ」のアルバムであった。
 森山威男ドラムだけではない。ピアノ板橋文夫ソプラノサックステナーサックス井上淑彦アルトサックス林栄一ベース吉野弘志までもが「うるさい」演奏を行なっている。長時間持続する轟音が拷問のように感じて聴いていられなかったのだ。

 ただし『マナ』の評価を一転させるきっかけが訪れた。2002年に同時リリースされた2枚の姉妹盤である。
 スロー・テンポの曲を中心とした『』とアップ・テンポの曲を中心とした『』。特に「うるさ型の」『』が全くうるさく感じなかった。怒濤のドラムの乱打が小刻みなリズムとして聞こえる感じで,ドラミングの大技小技が素直に耳に届いてきて気持ちよくノレてしまった。あれれ?

 恐らくは『』の前に『』を聴いたせいであろう。『』に吸い込まれそうな思いのまま『』へと登ったせいであろう。『』のガッツや『』のエネルギーを全身で受け止めることができたからであろう。
 森山威男の「轟音のドラミング」にカタルシスを感じた。森山威男の「轟音のドラミング」に心から感動した。まさか森山威男の演奏で涙する日が来るとは思わなかった。

MANA-2 そして不思議なことなのだが『』と『』を聴いていると,なぜだか分からないが自然と『マナ』を思い出した。『』と『』のような音楽を聴いたのは,今回が初めての経験ではない,と思ってしまった。
 その瞬間『』が『マナ』と繋がった。すさまじい早さで,一音一音が粒立っており,かつ美しい音色のスネア。それらを大音量で鳴らしている。奇麗な音色と大音量が両立する奇跡的なドラミングが素晴らしい。

 『マナ』における森山威男の熱量がほとばしっている。近づいたらヤケドしてしまいそうな“沸騰するドラミング”である。それでいて単なる熱演で終わることなく,絶妙なメロディーの押し引きが曲の展開に合わせて味付けされている。

 いやいや,ちょっと待ってください。森山さんは「ドンシャリ」だけを担当しておいてください。中域までも攻めないでください。あ〜あ,今夜も演ってくれました。森山さんがメロディーのツボを刺激するから,フロント陣が全速力で走り出してしまったでしょ? そんな感じなのです。
 ご褒美に『マナ』を食べさせてあげてください。『マナ』とは「蜜を入れた平焼き菓子」または「油を入れた甘い菓子」のことです。

 
01. SUNRISE
02. Dr. FUJII
03. BARJO
04. EXCHANGE
05. MANA

 
TAKEO MORIYAMA : Drums
FUMIO ITABASHI : Piano
TOSHIHIKO INOUE : Soprano Saxophone, Tenor Saxophone
EIICHI HAYASHI : Alto Saxophone
HIROSHI YOSHINO : Bass

(徳間ジャパン/TOKUMA JAPAN 1994年発売/TKCA-70494)
(ライナーノーツ/青木和富)

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