
きっかけはリチャード・ボナ繋がりである。ウィル・ブールウェアの3枚のソロ・アルバム『TAKE FIVE』『A NIGHT IN TUNISIA』『SUMMERTIME』でのピアノ・トリオで,リチャード・ボナがブイブイと暴れ回っているのだが「超絶技巧」のリチャード・ボナに負けじとウィル・ブールウェアも「超絶技巧」で,加えて実に音楽的な響きで,あのリチャード・ボナと張り合っている。
ウィル・ブールウェアのソロ・アルバムは全部買ってみた。そして次に手を出したのが「ウィル&レインボー」であり『OVER CRYSTAL GREEN』(以下『オーヴァー・クリスタル・グリーン』)であった。
そんな経緯があったので「叙情派」系の『オーヴァー・クリスタル・グリーン』に物足りなさを感じてしまった。
だ〜って,リチャード・ボナこそ入っていないものの,ウィル・リーのベース,スティーヴ・ガッドのドラム,ピーター・バーンスタインのギター,ランディ・ブレッカーのトランペット,マイケル・ブレッカーのテナー・サックス,ボブ・バーグのテナー・サックスの「超絶技巧」派集団。このメンバーで大熱演を期待しない方がおかしいでしょ?
ただし『オーヴァー・クリスタル・グリーン』とは「ウィル&レインボー」の26年振りの再結成盤。管理人はその元ネタであるライト・フュージョンの名盤『クリスタル・グリーン』の存在も知らなかったのだから,静かなるアコースティック盤『オーヴァー・クリスタル・グリーン』に物足りなさを感じてしまったのも当然の結果である。
しばらく放置状態だった『オーヴァー・クリスタル・グリーン』を“再発見”できたのは,改めてボブ・バーグを追いかけ出した時期の事である。
ズバリ『オーヴァー・クリスタル・グリーン』のテナー・サックス奏者は,マイケル・ブレッカー以上にボブ・バーグなのですよ。読者の皆さん。
とにかくマイケル・ブレッカーとボブ・バーグの現代テナー・サックスの両巨頭を始め「ウィル&レインボー」の「超絶技巧」集団の誰一人として小難しい方向には振れていない。だからといってアンサンブル志向でもない。誰かの音にインスパイアされたその誰かの音にさらにインスパイアされた別の誰かが「その場に合った」「それしかない」という音を合わせている。
リラックスしているようで,その実「その場その場のひらめきが見事に曲の中で構成されていく」のだから凄すぎる。腕試しされているかのような恐さが逆にある。事前に作曲された美メロが自由に形を変えて,アドリブに次ぐアドリブで譜面が連結されるような感覚で展開されていく。
「ウィル&レインボー」のメンバー全員で「美メロの共有化」ができているのだろう。その上で「自分なりの深い味わい」を出すことに挑戦している。だから「叙情派」系として,誤魔化しのきかない,メンバーそれぞれの“素の音楽性”が演奏にストレートに出ている。
ゆえにワン・フレーズにも一生懸命なボブ・バーグのテナー・サックスの“魂の響き”にグ〜ッ!

そんなウィル・ブールウェアなのだから,小編成のピアノ・トリオの方が前に出やすいぼだろう。バンド編成の「ウィル&レインボー」になると「裏方感」が滲んでくる。
『オーヴァー・クリスタル・グリーン』の聴き所は,アコースティックなフュージョン・サウンドであって,ともすると大人しく,小さくまとまりがちなテーマを補う形でエレクトリック・ピアノと,ピーター・バーンスタインのエレクトリック・ギターを鳴らしていく。
ウィル・リーとスティーヴ・ガッドのリズム隊にしても,テクニカルなスティーヴ・ガッドの小技を全前に押し出し,ウィル・リーが堅実なビートで後ろを支える構図である。これが仮にリチャード・ボナならスティーヴ・ガッドもここまでフランクには叩けていないはず。
先に「その場その場のひらめきが見事に曲の中で構成されていく」と書いが,そんな一瞬のハプニングもウィル・ブールウェアにとっては“想定内”。恐らくは人選の段階から『オーヴァー・クリスタル・グリーン』の完成された音楽が,ウィル・ブールウェアの頭の中ではすでに鳴っていたのだろう。
そんな“プロデューサー・チック”なウィル・ブールウェアの個性が,超ビッグ・ネーム・バンド「ウィル&レインボー」を1つにまとめた秘訣なのだと思う。
ただし本音を書けば“フュージョン・プロデューサー”ウィル・ブールウェアのソロ・プロジェクトでのガンガン来る演奏をこのメンバーで拡大できていたら…。
01. A Song For You
02. I'll Fly Away
03. Seascape
04. Appearance
05. Don't Let Me Be Lonely Tonight
06. Scenery
07. Waltz For Debby
08. Voyage
09. Bells
WILL & RAINBOW
WILL BOULWARE : Acoustic Piano, Hammond B3 organ, Synthesizers
WILL LEE : Bass
STEVE GADD : Drums
PETER BERNSTEIN : Guitar
JON WERKING : Synthesizers
MICHAEL BRECKER : Tenor Saxophone
RANDY BRECKER : Trumpet
BOB BERG : Tenor Saxophone
(エイティ・エイツ/EIGHTY-EIGHT'S 2002年発売/VRCL-18801)
(☆SACDハイブリッド盤仕様)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)
(☆SACDハイブリッド盤仕様)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)
イスラエルの王エヒウ(王二9:1-10:36)
akiko × 林正樹 『SPECTRUM』