
事実,1980年代は「女性ジャズメン」と来ればジェリ・アレンくらいしかいなかった(管理人は知らなかったが正解)。後の大西順子の先駆けのような存在なので,今でもジェリ・アレンには“重鎮”のイメージがある。
そんなジェリ・アレンだから,いつでもジャズ・ファンは自らが彼女の動向を追いかけ,彼女に擦り寄っていかなければならないと思い込んでいたものだから『TWENTY ONE』(以下『21』)で聴いた“ジェリ・アレンの別の素顔”に驚きと喜びを感じた,個人的に感慨深いアルバムである。
そう。『21』で,ジェリ・アレンが初めて,孤高のジャズ・マウンテンから降りてきた!
私たち“下々のジャズ・ファン”のもとへジェリ・アレンの方から近づいてきてくれた!
おおっと,誤解がありませんように! 『21』はコンテンポラリーな演奏集であって,追いかけずとも理解しやすいジャズではあるが,やはりマニアックでハイレベルなコンテンポラリー・ジャズ・ピアノ!
ジェリ・アレンの方から擦り寄って来たのは事実であるが,それでもまだまだ山の麓までには降りてきてくれてはいない。ジャズ歴26年の管理人をして,かろうじて理解できる大衆向け。
要はあのジェリ・アレンが有名スタンダード・ナンバーを演奏している。これである。でもこれだけでもうれしかった。
そうして『21』で語られるべきは,あのロン・カーターとトニー・ウィリアムスとの共演である。 そしてついでだから先に3番目のポイントも書いておくがジェリ・アレンのオリジナル曲のコンテンポラリー化である。
個人的には秀逸なオリジナル曲こそが,このアルバムのハイライトであるし,オリジナルがこれほどまでに跳ねたのはロン・カーターとトニー・ウィリアムスの働きが大きい。そうなるとプロデューサーの音楽眼を称賛しなければならない…。
おおっと! 早速『21』批評の本編を…。
1つ目のポイントは有名スタンダード・ナンバーの演奏である。手癖の着いたスタンダードなのに,実に斬新なアレンジが施されており「目から鱗」状態である。
話は脱線するが,ジェリ・アレンのCD批評で『21』を書こうと思ったのは山中千尋の『LACH DOCH MAL』で【RTG】のカヴァーが取り上げられていたから!
山中千尋の【RTG】が秀逸すぎて,本家・ジェリ・アレンとの聴き比べをしたくなったわけで…。現在の山中千尋の名アレンジャーぶりに感嘆しては,10年前のジェリ・アレンもこうだったよなぁ,という感想を思い出したわけで…。
『21』で演奏されたスタンダード・ナンバーの処理は,概ねハーモニーと言うよりは曲の構成と組み立て方の斬新なインパクトが楽しめる。
2つ目のポイントはロン・カーターとトニー・ウィリアムスと組んだピアノ・トリオだからこそ実現できた名演であるということ。
ロン・カーターとトニー・ウィリアムスの産み出すグルーヴは,この2人でないと産み出せない唯一無二の極上グルーヴ! そんな極上グルーヴの波をしっかり掴んで,ジェリ・アレンがドンピシャのタイム感でノリまくる!
やはり「新主流派」で鳴らしてきたロン・カーターとトニー・ウィリアムス。自由度の高いモーダルなハード・バップのリズムが「M−BASE」のジェリ・アレンに襲いかかる。
『21』でのロン・カーターとトニー・ウィリアムスが組んだリズムとはコンテンポラリーの仮面を着けたモードだと思う。

『21』収録の6曲のオリジナルのうち【RTG(ロン,トニー,ジェリ)】を除く5曲は過去曲の再演である。管理人は今回の再演集を“1人のジャズ・ピアニスト”として「巨匠」と対峙したジェリ・アレンの意気込みと読む。
“ジャズ・ピアニスト”ジェリ・アレンのこれまでの演奏スタイルは,平たく言えば前衛である。しかし『21』でのジェリ・アレンのピアノはオーソドックス・スタイル。
相変わらずクレバーでアグレッシブなで濃厚な演奏ではあるが,すぐにやりたいことが理解できる。正しくコンテンポラリーな“M−BASEから霧が晴れた”ジャズ・ピアノである。
ジェリ・アレンとしても「スーパー・トリオ」の記念碑として「こんな感じになりました」を狙ったように思っている。
管理人の結論。『21』批評。
『21』はジェリ・アレン史上,最も分かりやすいコンテンポラリーなアルバムである。
“1人のジャズ・ピアニスト”としてのジェリ・アレンが楽しめる。“名コンポーザー&アレンジャー”としてのジェリ・アレンが楽しめる。
ジェリ・アレンを知らずとも,知っている有名曲の「M−BASE」が楽しめる。ジェリ・アレンを知らずとも「黄金の」ロン・カーターとトニー・ウィリアムスが楽しめる。
時代の最先端を常に走り続けてきたジェリ・アレンの音楽とは,こんなにも間口の広いものだったのかっ。スタンダード・ナンバーとオリジナル曲の再演を聴いていると,旧譜のジェリ・アレンの難曲も攻略できそうな気がしてくる。
ジェリ・アレンのブライトなピアノ・タッチが,山の麓に集まったジャズ・ファンを,富士山よろしく5合目まではバスで連れて行ってくれる。『21』はそんなアルバムである。
01. RTG
02. IF I SHOULD LOOSE YOU
03. DRUMMER'S SONG
04. INTROSPECTION/THELONIOUS
05. A BEAUTIFUL FRIENDSHIP
06. IN THE MORNING (FOR SISTER LEOLA)
07. TEA FOR TWO
08. LULLABY OF THE LEAVES
09. FEED THE FIRE
10. OLD FOLKS
11. A PLACE OF POWER
12. IN THE MIDDLE
GERI ALLEN : Piano
RON CARTER : Bass
TONY WILLIAMS : Drums
(サムシン・エルス/SOMETHIN' ELSE 1994年発売/TOCJ-5564)
(ライナーノーツ/ジェリ・アレン,大村幸則)
(ライナーノーツ/ジェリ・アレン,大村幸則)
ダビデの王国はますます固められる(歴一11:1-12:40)
アキコ・グレース 『ヴェリアス・カラーズ・ピアノワークス』