
その実,クリフ・ジョーダンとクリフォード・ジョーダンは同一人物であり,ブルーノートではクリフ・ジョーダン,その他のリバーサイドとかアトランティック・ジャズとかヴィー・ジェイなどではクリフォード・ジョーダン表記でクレジットされている。真剣に音を聴けば同一人物だとすぐに気付くはずなのに…。
…と,そのように書こうと思ったが,やっぱり自分の耳には正直でありたい。ブルーノートのクリフ・ジョーダンのテナー・サックスは他のクリフォード・ジョーダン名義のテナー・サックスとは何かが違う。何かが,と言うよりは,何もかもが違う気がする。無防備なのだ。
そう。ブルーノートのクリフォード・ジョーダンは「ザ・クリフ・ジョーダン」の“気品高い”テナー・サックスが鳴っているのだ。
よく言われることであるが,ブルーノートはアルフレッド・ライオン好みのフィルターがかかっている。ただし,そのことを個人的に確信を込めて話せるようになったのは,ブルーノートだけで見せる「真面目な」クリフ・ジョーダンとブルーノート以外での「不良な」クリフォード・ジョーダンとの「別人問題」の実体験が非常に大きい。
『CLIFF CRAFT』(以下『クリフ・クラフト』)でのクリフ・ジョーダンが「ジャズの哲学」を口数少なく奏でているのだが,それが実に“音楽的”なのだ。
テーマ部のユニゾン&ハーモニー,アドリブの受け渡しや節回しにブルーノートの“らしさ”が出ているのだが,それ以上にブルーノートに「特別感」を感じれるのは,ジャズの楽しさが「盤面に載せられている感じ」が伝わってくる。
『クリフ・クラフト』でのクリフ・ジョーダンは,1つ1つのメロディーを丁寧に紡ぎ上げている。ダブルタイムを殆ど吹いていないし婉曲的な節回しもない。時に激しさも感じる演奏ではあるが,それでも肝心のブロウはしっかりと抑制されている。端正で穏健調のハード・バップである。
奇を衒うことのない「ザ・クリフ・ジョーダン」の素顔を録音してみせたアルフレッド・ライオンのサウンド・メイクが素晴らしい。「ザ・クリフ・ジョーダン」は,ソロではなくコンボの中に溶け込んだ,地に足が着いた演奏が一番輝くことを見抜いていた。
アルフレッド・ライオンが準備した『クリフ・クラフト』のサイドメンは,トランペットのアート・ファーマー,ピアノのソニー・クラーク,ベースのジョージ・タッカー,ドラムのルイス・ヘイズであった。
フロントにはクリフ・ジョーダンと同じタイプのアート・ファーマー,リズム隊には「黒光り」の名手たち。そのうちアート・ファーマーとルイス・ヘイズについては,ホレス・シルヴァー・クインテットでの同じバンド仲間である。
全てが有機的に絡み合いながら,最後までしっかりと乱れることなく,しっとりとした情感のもとジャズの黒さを伝えてくれる。いや〜,いい演奏である。
「岩」のような不動のバックを得て,腰を据えてじっくりと,演奏を超えた部分での音楽で,肉厚な音色に人肌の温もりが感じられるのがクリフ・ジョーダンのテナー・サックスなのである。

『クリフ・クラフト』の全トラックがそんな感じで,1曲目2曲目と聴いているうちに,それを1往復2往復と繰り返して聴くうちに,ジャズの楽しみを実感できる。内から内から喜びが込み上げてくる感じがする。
『クリフ・クラフト』は正直,星4つのアルバムであって『クリフ・クラフト』より優れたジャズ・アルバムは五万とある。でも『クリフ・クラフト』でなければ絶対に味わえない特別な魅力がある。他の音楽ファンではなくジャズ・ファンだけが,ジャズ・ファンだから感じられる大きな喜びが発見できる希少盤である。
ジャズとは「カッコつけ」が演奏するものなのだろうが,純粋無垢な無防備なジャズほどカッコイイ音楽はない。管理人は現在ジャズCDを2000枚ほどコレクションしているのだが,そんな2000枚の中から『クリフ・クラフト』を一本釣り,無性に聴きたくなる夜が年に数日訪れる。
若い盛りには「不良な」クリフォード・ジョーダンの方が良かった。ただし歳を重ねるにつれ「真面目な」クリフ・ジョーダンの方に愛着を感じている。
『クリフ・クラフト』をブルーノートの「隠れ名盤」の1枚として推薦する。えっ,ソニー・クラーク〜!?
01. LACONIA
02. SOUL-LO BLUES
03. CLIFF CRAFT
04. CONFIRMATION
05. SOPHISTICATED LADY
06. ANTHROPOLOGY
ART FARMER : Trumpet
CLIFF JORDAN : Tenor Saxophone
SONNY CLARK : Piano
GEORGE TUCKER : Bass
LOUIS HAYES : Drums
(ブルーノート/BLUE NOTE 1957年発売/TOCJ-1582)
(ライナーノーツ/ロバート・レヴィン,原田和典,久田大作)
(ライナーノーツ/ロバート・レヴィン,原田和典,久田大作)
ヨブの最後の論議(ヨブ26:1-31:40)
秋吉敏子 『フィネス』