![OPEN LETTER-1](https://livedoor.blogimg.jp/adliblog/imgs/7/a/7a4b5500.jpg)
しかし管理人の場合,ラルフ・タウナーと来ればビル・エヴァンスの名前の方がECMのレーベル・カラーよりも先に出る。
ラルフ・タウナーの内省的なギターの響きは,アコースティックでクラシカルなギタリストからの影響以上に,ビル・エヴァンスの内省的なピアノの響きから出発しているように思っている。
結構シリアス目でダークなギター・サウンドなのに,淀みを感じない響きの美しさが強烈で,みずみずしい透明感に溢れる演奏である。リリシズムの極みとでも言いたくなる美意識に裏打ちされたギター・スタイルではあるが,いつ聴いても決定的なポップさが浮かび上がって聴きやすい。
例えるなら,真っ黒なスケッチブックの上に明るい絵の具ばかりを使って描き上げた「印象画」。それがラルフ・タウナーのジャズ・ギターの真髄である。
だから個人的にはラルフ・タウナーと来ればECMではなく,ビル・エヴァンスのジャズ・ギターのイメージがどうしても強い。
そんなんだから,今夜レビューする『OPEN LETTER』(以下『オープン・レター』)のアルバム・イメージについても,ビル・エヴァンスの【WALTZ FOR DEBBY】【I FALL IN LOVE TOO EASILY】のカヴァーが収録されているのが一番の印象である。
『オープン・レター』というアルバムは,ラルフ・タウナーのギターとシンセの「一人多重録音」に,ドラムのピーター・アースキンが要所要所で加わった「ECMの中のニューエイジ系とかウインダムヒル系」と言う部分が肝である。
ソロ・ギターの曲は,疑いようのないラルフ・タウナーのアルバムなのだが,数曲で出てくるシンセサイザーによる持続音,パルス音等による効果音が非常に印象的で,そこにピーター・アースキンのドラムが加わった色彩豊かなトラックが好きなのだが,それでもフュージョン系のデジタル・サウンドに流れるのではなく,しっかりとアコースティックなECMの世界観にとどまっている部分を評価すべき名盤である。
でも,そんなことは百も承知の上で『オープン・レター』と来れば,あのアルバムは【WALTZ FOR DEBBY】だ,【I FALL IN LOVE TOO EASILY】だ,となる理由。それはとにかくラルフ・タウナーの【WALTZ FOR DEBBY】と【I FALL IN LOVE TOO EASILY】の出来が秀逸すぎるから!
ジャズ・スタンダードの【I FALL IN LOVE TOO EASILY】は言うに及ばず,ビル・エヴァンスの代表曲【WALTZ FOR DEBBY】にも,メインのピアノを始めとしてギターやサックスで演奏した数多くのカヴァー・バージョンが存在する。
「全包囲型」の名曲【I FALL IN LOVE TOO EASILY】の場合は,そのジャズメンの解釈を楽しめるのだが【WALTZ FOR DEBBY】の場合は,どうしてもビル・エヴァンスのあのイメージが大きな壁としてそびえ立っており,大抵は曲に負けてしまう中,ラルフ・タウナーのジャズ・ギターは曲の髄をしっかり表現している。ビル・エヴァンスのリリシズムなエッセンスを取り込んで見事に変換できた演奏の1つだと思う。
そして【I FALL IN LOVE TOO EASILY】での,静かでメロディアスだが凛としたジャズ・ギターにシビレル〜。
![OPEN LETTER-2](https://livedoor.blogimg.jp/adliblog/imgs/9/d/9d11f888.jpg)
スペイシーなシンセイザーと手慣れたジャズ・ドラムをバックに“名手”ラルフ・タウナーの12弦ギターが舞い踊る!
偉大なジャズメンに大きな影響を与え続けてきたビル・エヴァンスであるが,実は共演者に影響されやすかったことでも知られている。
ビル・エヴァンスが『オープン・レター』を聴いたなら,ラルフ・タウナーに影響されたビル・エヴァンスが聴けたかも?
ズバリ「ラルフ・タウナーとはビル・エヴァンスになりたかったギタリスト」にして「ビル・エヴァンスにギタリストになりたいと思わせることのできるギタリスト」。
ビル・エヴァンスのアルバムをコンプリートしたマニアの皆さん。次はラルフ・タウナーを集めてみるのはいかがですか?
01. The Sigh
02. Wistful Thinking
03. Adrift
04. Infection
05. Alar
06. Short 'n Stout
07. Waltz For Debby
08. I Fall In Love Too Easily
09. Magic Pouch
10. Magnolia Island
11. Nightfall
RALPH TOWNER : Classical Guitar, 12-String Guitar, Synthesizer
PETER ERSKINE : Drums
(ECM/ECM 1992年発売/POCJ-1125)
(ライナーノーツ/村井康司)
(ライナーノーツ/村井康司)
第二部(格10:1-24:34)
秋吉敏子ジャズオーケストラ・フィーチャリング・ルー・タバキン 『ウィッシング・ピース』