GENTLE THOUGHTS-1 ジャズにもフュージョンにも「歴史的名盤」と呼ばれるアルバムが幾枚かあるが,リー・リトナーの『GENTLE THOUGHTS』(以下『リー・リトナー & ジェントル・ソウツ』)は,真に「歴史的名盤」である。

 カシオペアでもスクェアでも渡辺貞夫でもなくウェザー・リポートでもなく『リー・リトナー & ジェントル・ソウツ』の大ヒットこそが日本全国にフュージョン・ブームを定着させた。ポップでメローで聞きやすいのにバカテクでカッコイイ。

 フュージョンと来れば,真っ先にギターを連想してしまうのはリー・リトナーの影響が大だと思う。リー・リトナーの次が高中正義であろう。そうしてその次に渡辺貞夫が来ると思うし,渡辺貞夫と来て連想するのが,やっぱりリー・リトナーでありデイヴ・グルーシンである。この2人が揃った「ジェントル・ソウツ」。
← 本当のヒーローは野呂一生なんですよ。なんですけど対抗馬は安藤まさひろではなく桜井哲夫ベースソロが決定的〜!

 『リー・リトナー & ジェントル・ソウツ』がフュージョンの「歴史的名盤」である理由は,フュージョンの「歴史的名曲」集でありフュージョンの「歴史的名演」集にある。

 フュージョンの「歴史的名曲」集の方は,アール・クルーの【CAPTAIN CARIBEY】〜EW&Fの【GETAWAY】で決まりである。恐らくは【CAPTAIN CARIBEY】を知らない音楽ファンなど極少数。そんな少数派の人たちをもEW&Fで見事に抑えている。全方位型でエリアをカバーしている。

 言うなればリー・リトナーの(あるいはデイヴ・グルーシンソロ名義の名演もある)【CAPTAIN CARIBEY】は,チック・コリアの【SPAIN】やウェザー・リポートの【BIRDLAND】に並ぶ,フュージョン界のジャズスタンダード・ナンバー収録。

 フュージョンの「歴史的名演」集の方は,これがダイレクト・カッティング盤という録音方法の性質上,特に重要なのだが,ミス・タッチがないのは当然として,その上でミュージシャンの個性までをも表現している。楽器演奏には個性が必要だし,その楽器特有の鳴りとか音色の美しさもどうしても必要。この特徴がオーディオ・マニアを兼務するジャズフュージョン・ファンの「こだわり」へと通じてもいる。

 「ジェントル・ソウツ」のメンバーは,ギターリー・リトナーサックスフルートアーニー・ワッツピアノエレピデイヴ・グルーシンパトリース・ラッシェンベースアンソニー・ジャクソンドラムハーヴィー・メイソンパーカッションスティーヴ・フォアマン
 どうですか? この超豪華メンバー。全員がスタジオ・ミュージシャンなので凡ミスなんてしないし,ほぼ完璧な演奏を聴かせてくれている。

GENTLE THOUGHTS-2 ここまで書くと『リー・リトナー & ジェントル・ソウツ』が「歴史的名盤」と称されるのも当然のことと納得いただけたかもしれない。でも1つ付け加えておくと『リー・リトナー & ジェントル・ソウツ』は日本制作の企画盤だったということが大ヒットの理由としては大きい。

 事実『リー・リトナー & ジェントル・ソウツ』はリー・リトナーの「来日記念盤」として発売されたし,その来日の目的は渡辺貞夫を売り出すための『AUTUMN BLOW』のライヴ・レコーディングである。
 そして音響メーカーであるビクターがダイレクト・カッティングという最先端の録音技術に乗り遅れまいとして,ダイレクト・カッティング・レコーディングをこなせる演奏力のあるバンド,としての録音機会の提供も上げることができるだろう。

 そう考えると全てが時代のタイミングである。時代が求め,そして時代に愛されたのが「ジェントル・ソウツ」。そしてそのタイミングをきっちり掴んでチャンスを逃さなかったのがリー・リトナーの実力である。
 一発録音の緊張感を保ったままで,洗練されたきれいなアドリブを弾く高速しユニゾンも決め続ける。超絶テクニックはあるし,曲を盛り上げる表現力もある。難曲であってもリスナーに感情移入をさせてくれる。そうして全部を聴き終わって感じるのが「爽やか」な印象。これである。これでこそがフュージョンの最大の魅力なのである。

 でもでもやっぱり書かなきゃいけない。リー・リトナーは全てを計算で作り上げている。そうでなければ『リー・リトナー & ジェントル・ソウツ』の「テイク2」を「隠し録り」なんてしていない。全ては「先の先まで」見通したリー・リトナーの音楽眼が産み落としたフュージョンの「歴史的名盤」なのである。

 
01. CAPTAIN CARIBE〜GETAWAY
02. CHANSON
03. MEISO
04. CAPTAIN FINGERS
05. FEEL LIKE MAKIN' LOVE
06. GENTLE THOUGHTS

 
LEE RITENOUR & HIS GENTLE THOUGHTS
LEE RITENOUR : Electric Guitar
ERNIE WATTS : Saxophone, Flute
DAVE GRUSIN : Piano, Fender Rhodes
PATRICE RUSHEN : Piano, Fender Rhodes
ANTHONY JACKSON : Bass
HARVEY MASON : Drums
STEVE FORMAN : Percussion

(ビクター/JVC 1977年発売/VICJ-60186)

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北対南,ミカエルが立ち上がる(ダニ10:1-12:13)
阿部薫豊住芳三郎 『MANNYOKA