STAR BRIGHT-1 なんだかんだ言われていてもトランペットウイントン・マルサリスのような「正統派」で「本格派」が最高だと思っている管理人。
 しかし,実際に愛聴しているトランペッターは,どちらかと言えば「くすみ色系」がズラリ。“帝王”マイルス・デイビスは別格として,特に大好きなのはブルー・ミッチェルのような「ほのぼの系」であって,今夜レヴューするディジー・リースも,ブルー・ミッチェルと来れば!的な存在であって,ブルー・ミッチェルの名前が出ればアート・ファーマーディジー・リースの名前がセットで登場するように思う。

 「くすみ色系」の特長はトランペットを軸とした音楽全体の表現力にあるのだが,殊にディジー・リースのサウンド・メイクは,音楽のコアになる部分が安定し充実している点にある。
 ノリはいいが,だからといってハイノートは織り交ぜない。朗々とメロディー・ラインを吹いているが,そのうちにメロディーを超えた部分でトランペットの“鳴り”が印象に残ってくる。いつの間にか,この曲を吹かせるならディジー・リースでなければならない,と刷り込まれてしまう。

 そう。最初はメロディーであり最後は演奏である。これがジャズの醍醐味である。最後の最後には,自分はトランペットを聴いている,と思うようになる。そしてディジー・リースを聴いている,と思うようになる。こんなジャズメンが大好物なのである。

 ディジー・リースの何がそんなに好きなのか? 真っ直ぐで伸びの良いトランペットの音色とブリリアントで端正で流麗なアドリブである。
 ディジー・リーストランペットは実は芯が強い。腰の入った力強いトーンと輪郭のあるアドリブには説得力がある。

 分かりやすい例として『STAR BRIGHT』(以下『スター・ブライト』)にはブルー・ミッチェルの決定的な名演である【I’LL CLOSE MY EYES】が収録されている。
 同タイプのブルー・ミッチェルの,そしてピアノブルー・ミッチェルの【I’LL CLOSE MY EYES】と同じウイントン・ケリーという点が「くすみ色系」好きのファン心理をくすぐってくるのだが,ディジー・リースの実直で丁寧な吹き上げ方が最高で【I’LL CLOSE MY EYES】のシンプルなテーマと相性チリバツのよだれものである。

STAR BRIGHT-2 ディジー・リースの【I’LL CLOSE MY EYES】にあってブルー・ミッチェルの【I’LL CLOSE MY EYES】にないもの,それは「人間味」だと思う。
 演奏の完成度の高さで比較するならば,ブルー・ミッチェルの【I’LL CLOSE MY EYES】の描く世界観が完璧であって上だと思うが,ディジー・リースの【I’LL CLOSE MY EYES】には躍動感があり,一回きりの演奏としてのジャズの魅力が投影されている。

 ウイントン・ケリーピアノブルー・ミッチェルとの演奏時と比較して,生真面目さが薄れた感じで,ピアノが大いに動いているし,降下フレーズが遊んでいる。
 そして「全体のキーマン」であるハンク・モブレーの溌溂としたテナーサックスに合わせるように,ディジー・リースも曲の進行と共にメロディーではなくアドリブに演奏の軸足を移すのだが,その表現するニュアンスの変化が曲調と共演者の個性とのバランスに気を配ったもので,結果として見事なまでの,ディジー・リースの美メロ,にまとめ上げている。派手さはないが実に良質な演奏で幸福感が感じられる。

 素晴らしき名曲,素晴らしき名演,素晴らしきアルバム,素晴らしきジャズ

 
01. THE RAKE
02. I'LL CLOSE MY EYES
03. GROOVESVILLE
04. THE REBOUND
05. I WISHED ON THE MOON
06. A VARIATION ON MONK

 
DIZZY REECE : Trumpet
HANK MOBLEY : Tenor Saxophone
WYNTON KELLY : Piano
PAUL CHAMBERS : Bass
ART TAYLOR : Drums

(ブルーノート/BLUE NOTE 1959年発売/TOCJ-4023)
(ライナーノーツ/レナード・フェザー,上田篤,奥津欣栄)

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第6の幻:飛んで行く巻き物(ゼカ5:1-4)
あんみつ 『日曜はダメよ