
鳥山雄司のスタイリッシュなハイセンスは独特である。決して近づき難い感じではないのだが,どこかで理解できない自分にドキドキしてしまうのは,こちらも「慶応ボーイ」であるふかわりょうのシュールな笑いを,笑えるのか笑えないのかと同様の感覚を持つ。
管理人が上京したての頃に感じた,東京=大都会=凄い人たちがたくさんいる,負けているとは思わないが勝っているなんて滅相もない,豪語すると後で恥をかく,謙遜に,謙虚に腰低く振舞うのが知恵の道,を鳥山雄司の音楽と向き合う時に意識してしまう。
ギタリストとしての鳥山雄司が素晴らしい。サイドメンとして至る所でかっ飛ばしたアドリブを弾いているのだが,不思議なことに鳥山雄司が前に出て,思いっ切りギターを弾いているイメージは抱かない。中央突破するのではなくいつでもサイドを陣取ってはテクニカルな凄腕を聴かせ続けている。でもそこが余裕しゃくしゃくなんだよなぁ。絶対に能力を出し切らないというか,そこが神秘的で底なしのイメージを残しているのだろう。
そう。全力を出すまでもなく毎回成功を収めてしまう「慶応ボーイ」のフュージョン代表。それが鳥山雄司“その人”であろう。
『PLATINUM−DORI』(以下『プラチナ通り』)は,そんなスカシタ鳥山雄司の,力の抜けた,それでいてキラキラとした,でも出来上がりとしては「地味セン」な名盤である。
『プラチナ通り』制作時の鳥山雄司のスタジオ・ワークは,スタジオ・ミュージシャン以上にコンポーザーやアレンジ業がメインだったと思う。
というのもJポップがシティ・ポップへと移行していた時代に鳥山雄司のクレジットをよく目にしていた記憶がある。というのも2,セラビーはアイドルヲタク。松田聖子,中森明菜のツートップ,そして大好きだった島田奈美ちゃん。
都会的なJポップには鳥山雄司の「地味セン」フィーリングがぴったりなことだと思う。
歌謡曲と呼ばれていたヴォーカリスト一強からバックサウンドも含めて曲全体を楽しむ時代が到来した。ヴォーカリストが前に出るのは当然のこととして,イントロやサビにこそ曲の特徴が集約される時代が到来した。DTMや打ち込みだけでプロユースのサウンドが完成するのだから,もはやソロイスト至上主義ではなくなっていた。
時代は「派手セン」から「地味セン」シフト。鳥山雄司のマルチな才能が「地味セン」な名盤『プラチナ通り』で遺憾なく発揮されている。

ギタリスト以上にプロデューサー気質が勝っている鳥山雄司が,第三者の視点で鳥山雄司のギターをピースの1つとして扱っている。それが演奏のみずみずしさへとつながっている。
全部の楽器の音がとにかくシンプル・モダンで抜群にセンスが良い。メロディアスでシンプルなリズム・セクションの波の上を,自由自在にリラックスしてのびのびとリード・ギターを歌わせている。決してテクニックに走ることのない「音楽を聴かせる」ためのエッセンスが散りばめられた音造りが特徴的である。
ギター音の足し算引き算かけ算割り算を使って,多くの人に受け入れられると同時にフュージョン好きには“引っ掛かり”が残るエッセンスが素晴らしい。サラッと聴けてしまうのだが,もう1回聴きたくなるような,もう1回聴いてしまうと2回目のプレイボタンを押したくなってしまうような“心地良さ”が感じられる。
管理人の大量コレクションの中にあって『プラチナ通り』は,1人ヘッドフォンで拝聴するではなく,誰かと軽く談笑する時に流したくなる,ちょっとしたパーティー・フュージョンの一番手だと思う。かなりの確率で鳥山雄司は一般受けがかなり良い。
01. HI! SAKURAKO-SAN
02. HALF MOON PARADICE
03. POTTED PARROT
04. MAGGINESS
05. FATHER’S BACK
06. SUKI-YAKI
07. FOOT LOCKER
08. DANCIN’ IN THE PARK
09. LIME TREE
10. PLATINUM-DORI
YUJI TORIYAMA : Electric Guitars, Acoustic Guitars, Keyboard, Programming
ATSUNOBU YAKABE : Drums, Snare Finger Roll, Programming
CHIHARU MIKUZUKI : Electric Bass, Contrabass
MINORU MUKAIYA : Synthesizers
NEIL LARSEN : Synthesizers, Hammond B-3
KOH OHTANI : Acoustic Piano, Synthesizers
HIROTAKA IZUMI : Acoustic Piano, Synthesizers
LENNY CASTRO : Congas, Percussion
YOHICHI MURATA : Trombone
TOSHIO ARAKI : Trumpet, Flugel Horn
MASATO HONDA : Saxophone, Flute
JOE STRINGS : Strings
TAKASHI KATO GROUP : Strings
(インビテーション/INVITATION 1990年発売/CSCL 1500)
(ライナーノーツ/岩田由記夫)
(ライナーノーツ/岩田由記夫)
エルサレム内およびその周辺での最後の公の宣教(ルカ19:28-23:25)
石井彰トリオ 『EMBRACE』